権力は悪用されやすい
──そうはいっても、ガバナンス改革は待ったなしだ。具体的に、どのような取り組みが考えられるか。
高岡:今は過渡期だと認識し、大胆な取り組みを推進する必要がある。例えば、グローバル企業で経営手腕を振るってきた外国人のプロ経営者を積極的に登用してはどうか。このような提案をすると「言葉の壁はどうするのか」という声が必ず上がるが、AIの加速度的な進化に伴い自動翻訳ツールの質も上がっている。取締役会だけは同時通訳を入れるというのもアリだ。言葉の壁を越える方法はいくらでも考えられる。
経営人材の育成という観点では、企業で執行役員や部長クラスの役職経験者を積極的に起用するのも一案だ。現役の執行役員を社外取締役として他社に送り込み、成長の機会につなげる仕組みがあってもいい。
──不祥事を防ぐためには、コーポレートガバナンスのどの部分を強化すべきか。
高岡:内部監査の強化が最優先だ。外資系企業では、「権力は悪用されやすい」という性悪説に基づき、懸案事項が発覚すれば監査部門が社長を経由せず社外取締役に直接報告する。日本企業は性善説に依存しがちで、監査機能が弱い。所有と経営の分離を行ったうえで、内部監査と社外取締役が連携しながら経営のチェックを行い、違反が確認されれば社長であろうと即時解任する。このようなガバナンス体制こそ、信頼される企業になるための近道だ。
──コーポレートガバナンスの強化は、企業の成長や「稼ぐ力」にどうつながるのか。
高岡:企業の持続的な成長にはイノベーションが不可欠であり、イノベーションの推進には企業のガバナンスが欠かせない。
日本企業は過去30年にわたり、内部留保を蓄積する一方で研究開発投資や従業員に十分な資本を回してこなかった。これはステークホルダー資本主義に反する。利益を生まない経営陣を取締役会が交代させる。この仕組みが正しく機能すれば企業、ひいては日本のイノベーション促進につながる。
会社法上の株式会社の分類
・指名委員会等設置会社
指名委員会・報酬委員会・監査委員会の3つの法定委員会を備えた会社・監査役会設置会社
取締役会のなかに監査等委員会を置く形態の会社・監査等委員会設置会社
指名委員会等設置会社と監査役会設置会社の中間的位置付け
高岡浩三◎ネスレ日本代表取締役社長兼CEOとしてDXによるネスカフェ・アンバサダーモデルを構築し、同社を高収益企業に育てる。2020年4月より現職。DXを通じたイノベーション創出のプロデューサーとして活躍。


