2025年10月24日発売のForbes JAPAN12月号第一特集は、「新いい会社ランキング2025」特集。上場企業を対象にした毎年恒例の大企業特集では、今年は「ステークホルダー資本主義ランキング」と、新たに「ESGフィット度ランキング」の2つを掲載している。ステークホルダー資本主義ランキングは、「地球(自然資本)」「従業員」「サプライヤー・地域」「株主」「顧客・消費者」の5つのカテゴリーで解析。ESGフィット度ランキングでは、サステナビリティ情報開示の義務化が進むなか、ESGの取り組みを自社の「稼ぐ力」につなげている企業を導き出した。同号では2つのランキング、IPOランキング上位の11企業の経営者インタビューを一挙掲載している。
日本初の化学肥料メーカーとして創業し、今や半導体材料で最先端をいく日産化学。人の暮らしを縁の下で支える老舗企業がトップシェアの座を守り続ける秘訣とは。
日本の農業政策が転換点を迎えつつある。コメの価格高騰を受け、政府は2025年5月に随意契約で備蓄米を放出。しかし効果は限定的で、価格は依然として高水準にある。生産量を確保するため、生産調整を見直す機運が高まっている。
この状況を商機ととらえる会社がある。日産化学だ。同社は1887年に日本初の化学肥料メーカーとして創業。その後、事業領域を拡大して電子材料まで幅広く手がける化学メーカーとなったが、農業化学品は現在も売り上げの3分の1を占める。2025年3月期は売上高、経常利益、純利益ともに過去最高を更新。稼ぐ力の高い優良企業である。
同社を率いる八木晋介は、コメをめぐる状況についてこう語る。
「政策が見直されて田んぼが増えれば、我々の除草剤が活躍する場面も増えるでしょう。耕作放棄地を緑化する際にも、我々の農業化学品が貢献できる。ダイナミックな動きが起これば、それをとらえるための準備はできています」
八木が自信をのぞかせるのは、変化に対してつねに先手を打ってきたという自負があるからだ。例えば日産化学が国内トップシェアをもつ水田用除草剤だ。同じ除草剤を使い続けると雑草が耐性をもち始めるため、除草剤は化学的な構造を変えるなどしてバージョンアップさせる必要がある。同社はラウンドアップ®という除草剤を擁するが、定番品も絶えず進化させてきた。だからこそトップシェアの座を守り続けることができたのだ。
日産化学は25年からの新中期経営計画「Vista2027 Stage I I」において、社会課題の解決に貢献する製品やサービスの売上高の割合を全体の60%以上とする「サステナブルアジェンダ」を設定した。従来掲げていた「27年度までに55%以上」という数値目標はすでに達成したため、前倒しで目標を引き上げた。
農業は社会課題に直結する領域であり、サステナビリティとのつながりがわかりやすい。一方、今や農業化学品以上の規模に育った、半導体材料やディスプレイ材料を含む機能性材料事業はどうか。
「私たちは長期経営計画で『未来のための、はじめてをつくる』というスローガンを掲げました。機能性材料も、はじめてを生み出すことが社会課題の解決に貢献すると考えています」
例えば、ディスプレイ材料では液晶パネルの配向膜で最先端をいく。特に急成長の光配向IPS液晶市場では他社の追随を許さない。半導体材料でも最先端のEUV(極端紫外線)向け材料を開発。どちらの「はじめて」も、人々の豊かな暮らしを縁の下で支える製品だ。「新中計では、農業化学品と機能性材料に経営資源の7割を集約することを発表しました。研究開発費だけでなく、人やファシリティもこれらの分野に集中的に投資していきます」


