経営・戦略

2025.12.16 13:30

日産化学トップシェアの秘訣 八木社長の目利き力と挑戦

八木晋介|日産化学 代表取締役 取締役社長

顧客視点で「目利き力」を磨く

サステナブルアジェンダ達成に向けて、八木が特に注力していることがある。目利き力をもった人材の育成だ。

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「どんなに優れた研究でも、市場性がなければビジネスとしての持続可能性に乏しく、社会課題解決に近づくことができません。出口が小さいことがわかったら開発をストップして、より可能性のあるプロジェクトにリソースを移すことが大切です。研究者も顧客目線をもち、『この研究は本当にものになるのか』と目利きする力を身につける必要があります」

こう語る背景には、かつては自身が正反対の技術者だったことへの反省があるのかもしれない。八木は生産技術畑の出身だ。工場では社外との接点が少なく、若いころは「頼まれたものを高品質かつ安定的につくればいい」と考えがちだった。

意識が変わったのは、40歳で医薬品製造課長になってからだ。プラントには製薬会社の担当者が査察にやってくる。彼らは何百項目にわたるチェックリストを手に、八木たちを細かく指導した。

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「法定以上のことはやっていたから、何度もけんかしましたよ。でも、お客様と接するうちに、製薬会社の先には患者さんがいて、だからこそ一切の妥協をしないのだとわかった。それからはお客様と、その先にいる最終ユーザーが何を求めているのかを意識するようになりました」

視野が広がると、新しいことに挑戦する意欲も湧いてくる。八木は海外の大手製薬会社へ視察に訪れ、最新設備の効率性や安全性を認識。帰国後、さっそく設備を刷新する提案書を書き上げた。

「3桁億円規模の投資が必要だったので、最初は『こんなぜいたくなものはいらない』と却下されました。そこから重要なものを絞りこみ、なんとか6割は認めてもらえた。設備を刷新した工場を査察に来たお客様に褒めてもらえたときは、本当にうれしかったですね」

経営トップとして、各部門から上がってくる大型投資案件に判断を下す立場になった今、意思決定の際に重視しているのは「本質かどうか」だという。

「社長に就任した当初はリスク回避を重視していましたが、投資しないこともリスク。近年は、ポジティブに判断する方向へとやや傾いています」

近い将来、日産化学から世界の人々を満足させる画期的な「はじめて」が生み出されることを期待したい。


八木晋介◎1962年、富山県生まれ。東北大学工学部を卒業後、85年に日産化学工業(現・日産化学)入社。技術畑でキャリアを重ね、2016年執行役員袖ケ浦工場長、18年常務執行役員、20年取締役専務執行役員を経て21年4月から現職。

日産化学◎1887年創業。化学品、機能性材料、農業化学品、ヘルスケアの4つのセグメントで事業を展開。長期経営計画 「Atelier2050」では情報通信、ライフサイエンス、環境エネルギー領域の深耕と拡大を視野に入れる。

文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

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