米国のロボット工学には、アップルの共同創業者スティーブ・ウォズニアックが提唱した有名な指標がある。「見知らぬ家に入り、コーヒーをいれられたら汎用ロボットとして合格」というもので、ウォズニアック・テストなどと呼ばれる。本稿の結びでも触れられるこの課題は、現在のフィジカルAIとヒューマノイドロボット(人型ロボット)開発における最難関のフロンティアを示している。
「ハルシネーション(幻覚)」の類が許される従来の生成AIとは異なり、質量を持つロボットの失敗は物理的な破壊を招く。それでもなお、開発スピードは加速の一途をたどっている。数カ月前まで「ノロノロ歩き」だった機械が、なぜ今、人間のように走り始めたのか。その急激な進化の裏側にある、技術とコストという2つの潮流の相互作用を読み解く。
かつて緩慢だったロボットの動きが改善し、滑らかで素早い走行が可能に
ほんの数か月前まで、ヒューマノイドロボットに取り組む何百社もの企業が作っていたロボットのほとんどは、控えめに言っても「遅い」と評するしかない代物だった。最高速度は時速約3マイル(約4.8キロ)程度。歩行はほとんどノロノロ歩きと言ってよいレベルで、腕の動きも緩慢でぎこちなかった。ところがついこの週末、われわれは、素早く、優雅に、そして滑らかに走るロボットを目にした。
これは、視覚や知能を獲得しつつあるロボット――およびその他の機械――が、これまでになく速いペースで進化していることを示す明確なサインである。
「突如として、AIに『身体』を与えることが、大規模に展開しても経済的に成り立つようになってきています」と、SynapseでAIとデータ部門のディレクターを務めるマット・ギルバートは、最近のTechFirstのインタビューで語る。
アマゾンは100万台以上のロボットを稼働させ、エヌビディアとともにフィジカルAIへの投資を加速
AIを物理的なハードウェアに組み込むコストは、AIそのものの性能が桁違いに向上しているのとまさに同じタイミングで低下している。もはやハードウェアはボトルネックではなく、ロボットやその他のスマートマシンにAIを組み込んだ「フィジカルAI」は、すでに大きな投資対効果(ROI)を生み出しているとギルバートはいう。
だからこそ、アマゾンは現在すでに100万台を超える倉庫ロボットを稼働させており、さらにエヌビディアとともに、他のフィジカルAIロボット企業への投資を一段と拡大しているのである。



