会話術3:相手がなりたい人物像を認める
従来のミラーリングは、主に相手の動作や口調を真似る行為だ。一方、アイデンティティ・エコーイングは、相手が自らについて語ろうとしているストーリーに焦点を当てる。人をひきつけるオーラを持つ人は直感的に相手の価値観や動機、自己概念を察知し、それを肯定する言葉でそのストーリーを示す。
これはお世辞と誤解されがちだが、実際には心理的にはるかに強力な行為だ。相手が発信しているアイデンティティを明確に認めることだ。「あなたは一度何かを気にしたら本気で取り組むタイプだね」「目の前に課題があると、むしろ力を発揮するタイプに見えるよ」といった具合だ。こうした言葉は、相手が表現しようとしている自己像をあなたが認識していることを伝える。
専門誌『British Educational Research Journal 』に掲載された最近の研究は、他の人からの承認がなぜ心地良いのかを説明している。『Connected Belonging』と題されたこの論文は、アイデンティティの承認とは行動ではなく、根底にある自己スキーマが認められることだと説明している。そのため、発言者の帰属意識や感情面のウェルビーイング、社会的安定性の向上を予測する。つまり、人は単に好かれたいだけでなく、アイデンティティ関連で理解されたいのだ。
アイデンティティ・エコーイングには、相手が絶えず自らを明らかにしている暗黙の細部に注意を払うことが求められる。これには相手が選択や強調、感情的な投資を通じて表している要素も含まれる。そのアイデンティティを明確かつ冷静に言葉にすれば、深く「理解された」という稀な体験を生み出す。この反映は相手が「ありたい自分」ではなく「自認する自分」を認めるため、プレッシャーなしで信頼関係を築く。
「あれは印象的だった」と言うのと「あなたは肝心な時に現れるタイプの人間だ」と言うのとでは違う。後者が共感を呼ぶのは、一瞬の印象ではなくアイデンティティの安定した部分を肯定するからだ。


