ウクライナも同様の課題を抱えている。6月に4Gセルラーモデムを搭載したロシア軍のシャヘド無人機が発見された際、ウクライナの電子戦の第一人者セルヒー・ベスクレストノウは、多くの人から携帯電話サービスが停止されるのではないかと懸念する声が上がったことに対して、「全国で携帯電話通信が遮断されることはない。救急車や消防車を呼んだり、大切な人に電話をかけたりすることは可能だ」と請け合った。
他方で、ベスクレストノウは、現在対策が検討されており、ロシアのように音声通話は許可されるかもしれないが、危険地域ではデータ通信が遮断される可能性があると指摘した(年配の読者ならご存知かもしれないが、オーディオチャンネルを介してデジタル信号を送ることは可能だ。ただし、帯域幅は狭くなる)。
簡易爆弾の脅威
欧米の治安機関は既に、携帯電話の信号で起爆される簡易爆弾(IED)の脅威という同様の課題に直面している。かつて、爆弾を起爆させる無線装置は複雑で高価かつ信頼性に欠けていたが、携帯電話の時代が到来したことで、装置を仕掛けるのに専門的な技術はほとんど必要なくなった。イラクでは、30ドル(約4700円)の携帯電話端末「ノキア105」が、過激派組織「イスラム国(IS)」工作員の間で起爆装置としてもてはやされた。
紛争地帯の米軍は、道路脇の爆弾から車列を守るために「ウォーロック」のような妨害装置を使用しており、今日でもこうした攻撃から要人を守るために同様の技術が利用可能だ。大統領の車列には、電子戦妨害アンテナを備えた車両が数台含まれている。
こうしたシステムの使用は厳しく管理されている。米国では携帯電話の妨害は、国土安全保障省の活動など特定の状況下でのみ、公的機関によって許可される。同国の携帯電話妨害改革法では、矯正施設が施設内で禁止されている携帯電話を遮断することも認められている。
一般的に、既知の脅威がある極めてリスクの高い状況を除き、妨害装置が緊急サービスへの通報や緊急サービス自体の運営に支障を来すのではないかという懸念が、現在のところ妨害の利点より優先される傾向にある。防御策としては、不正SIMカードを特定し遮断しようとするロシアの手法に倣うものになると思われる。これは、高速移動中や高高度にあるSIMカードを特定し、通信を遮断することにも拡大される可能性がある。
だが、状況は厳しくなるばかりだ。両陣営の無人機の一部は既に米宇宙企業スペースXが運営する衛星インターネットサービス「スターリンク」の受信機を搭載しており、現地の電話回線には依存していない。この技術は急速に普及しつつあり、複数の通信事業者が衛星直結型携帯電話の実証を行っている。同サービスは、携帯電話基地局からの電波が届かない地域の加入者向けに既に提供されている。
衛星電話通信が普及する中、その使用を制限したり妨害したりすることは現実的ではなくなっている。敵対国やテロ組織に属する無人機操縦士は、地球の裏側から精密攻撃を実行することができる。


