西陣織の老舗「細尾」を擁するHOSOO COLLECTIVEは11月29日、京都・与謝野町の約4万2000㎡(およそ東京ドーム1個分)の土地を取得し、約15億円を投じて国産シルクの新拠点「KYOTO SILK HUB」を立ち上げると発表した。
今後10年をかけて、養蚕から生糸、織物、製品化までを一体で再構築する「純国産シルク」の産業エコシステムをつくる計画だ。プロジェクトは、桑畑の造成と養蚕テックの開発を進める第1期(2025〜28年)と、研究・生産設備を整える第2期(2028〜35年)で構成される。
細尾は元禄元年(1688年)の創業。300年以上にわたり宮廷装束や能衣装など格式ある西陣織を手掛けてきた。12代目の細尾真孝は、用途が限定的だった西陣織の帯の規格サイズを伝統的な32㎝からテキスタイルなどに用いやすい150㎝幅にできる織機を開発し、海外メゾンとも協業。西陣織をインテリアやファッション、現代建築の分野へと応用することで、世界のラグジュアリー素材へと進化させている。
「KYOTO SILK HUB」の建設予定地は京都府与謝野町だ。ここは、「丹後ちりめん」で知られる絹織物の産地で、西陣織の帯に使われる白生地(染色前の絹布)の最大供給地として発展してきた歴史をもつ。人口100人あたりの織物事業者数が全国一多いとも言われており、現在も300軒弱の事業者が点在している。ここで養蚕から繭、生糸、織物、製品化まで、分断されてきた工程を一体で再設計し、純国産シルクの生産体制を再構築することを目指す。
国産シルクは繊維の長さや光沢に優れるものの、生産量はピーク時の20分の1以下に落ち込み、産地の維持が難しくなっている。こうした背景を踏まえ、細尾本社で開かれた記者会見で、細尾社長はこう語った。
「江戸時代につくられた絹の着物に触れる機会があったのですが、その手触りが、現代のシルクより圧倒的に良くて驚かされたんです。現在、日本国内に流通するシルクの9割以上は輸入品ですが、この高品質な国産シルクを復活させたく、弊社は10年ほど前から生産に挑戦してきました。しかしながら、品質にこだわるほど人件費がかかり、良いものができても、市場価格の8倍近い高級品になってしまう。補助金の減少や生産農家の高齢化という課題も重なり、従来のやり方とは違う持続可能な新しい方法を模索していくなかで、このプロジェクトに至りました」



