プロジェクトは、第1期と第2期に大きく分かれる。全容は次のとおりだ。
第1期(2025年〜28年)は、自動化・再生エネルギー活用を軸とした「ファームの設計」フェーズ。取得した4万2000平方メートルの土地に、桑畑と専用施設の建築を順次進め、生産の基盤づくりと環境整備に重点を置く。
注目すべきは、ソニーコンピュータサイエンス研究所と協働開発中の新たな養蚕システムだ。桑木の栽培や刈り取り、細かな温湿度管理を必要とする蚕の飼育など、これまで人力に頼ってきた作業を網羅するセンサーやロボティクス、AIを独自開発する。従来は熟練者の経験値に依存してきた工程を、データとアルゴリズムで最適化する点が大きな転換となる。テクノロジーの活用で、生産者の過重労働問題や、気候変動によって受ける生産ダメージといった課題解決にも取り組み、国際標準化できる次世代の産業モデル確立を目指す。
建物は現在設計中で27年の着工を目標としているが、桑畑の方は今年手始めに桑木1000本を植樹した。成長に最低3年を要する桑木の最適な育成環境を探りながら、30年までに年間10トンの繭収穫を目標として畑を広げていく。
第2期(2028年〜35年)は、実際に蚕から生糸をつくる設備や研究ラボを整える「産業基盤の構築」フェーズだ。ここからは応用研究や産業拡張が中心となり、建材、バイオ・ウェルネスなど他領域への応用研究にも着手する。そして35年以降は、京都で培った産業モデルの「全国展開」フェーズを見据えている。
細尾社長は、「グローバルに依存する生産の仕組みを覆し、京都から新たな世界標準を築きたい。今回のプロジェクトは、弊社の一事業にとどまらず、日本から世界をリードする運動になると考えている」と語り、記者会見に登壇した京都府・鈴木一弥副知事と、与謝野町・山添藤真町長も、新たな地方創生モデルとして同プロジェクトに大きな期待を寄せた。
順調に進めば、原料となる繭からシルクの製品化まで、全工程が京都で完結する純国産シルクのサプライチェーンが今後10年で確立される。これは、細尾が世界有数のシルクブランドへの進化を遂げると同時に、与謝野町が遊休地の活用と新たな経済機会の創出を叶え、日本が「養蚕」という伝統文化を復活させることにもなる。「三方良し」の新事業となるか、今後に注目したい。


