ビールを飲むとき、グラスの形状にこだわる人がいるが、グラスの飲み口の厚さで味わいが変わることを意識している人は、どれくらいいるだろうか。
中央大学文学部の有賀敦紀教授らによる研究グループは、サッポロビールと共同で、唇に伝わるグラスの感覚がビールの味に与える影響について研究を行っているが、このほど、グラスの飲み口が厚いと甘く、薄いと苦く感じられることを実験で明らかにした。
すでに、カップの飲み口の厚さが緑茶の味わいに影響するという先行研究があり、そこでも厚い容器では甘く、薄い容器では苦く感じられるという結果が得られている。だが、アルコール飲料では検証されていなかった。
そこで研究グループは、普段よくビールを飲むという成人男女48人を対象に実験を行った。目隠しをした状態で、同じ種類のビールを、飲み口が3ミリ厚のグラスと1ミリ厚のグラスで飲んだあと、より甘味を感じたグラスと、より苦味を感じたグラスを選んでもらった。
結果は、厚いグラスで甘いと感じた人の数が多く、薄いグラスでは苦いと感じる人が多かった。実験は2度行われ、2回目はグラスの厚みはそのままで、重さが同じになるように調整した。それでも評価はほぼ同じだった。これにより「現象の一定の普遍性が確認されました」という。

これは、ある感覚が別の感覚に影響を与える「感覚間転移(sensation transference)」と呼ばれる心理現象によるものだという。これは、20世紀のマーケティングに革命を起こした臨床心理学者ルイス・チェスキンが提唱した概念。彼は、美しいパッケージデザインが商品の好感度を高めると主張した。それは食品にも通じる。
同じビールでも、シチュエーションに応じてグラスの厚みを変えることで味わいの変化が楽しめる。「グラス選びを軸にした新しい価値提供が可能になる」と研究グループは話す。さらに同グループは「グラスの触覚デザイン」が新たな価値創出の鍵になるとも指摘している。ビールだけでなく、感覚間転移を応用した食体験の向上にも貢献するということだ。



