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2025.12.15 10:00

「顧客対応AI」のユニコーン企業、米Decagonを生んだ28歳起業家:30UNDER30

Decagonの共同創業者兼CEOのジェシー・チャン(Photo By Shauna Clinton/Sportsfile for Web Summit via Getty Images)

レンタカー大手ハーツやClassPassなど、顧客企業で高い解決率と効率化を実現

Decagonは、顧客からの評価が高い点が挙げられる。レンタカー大手ハーツでは、同社のチャットボットが顧客からの問い合わせの4件に3件を人間の担当者に引き継ぐことなく解決している。予約のキャンセルや延長といった業務も自動で処理する。同社の音声エージェントは、同時に数十件の会話を処理できると、ハーツの顧客エクスペリエンス担当VPのヴィクラム・ラージャゴパランは語る。これにより、待ち時間に耐えられない顧客にも即時対応が可能になる。

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企業はしばしば、チャットボット同士を競わせる形で他社のカスタマーサービスツールと性能を比較する。ClassPassのカスタマーサービス部門のシニアディレクター、ダニエル・ドレマスはDecagonのツールを11社の競合と比較した結果、導入を決めたという。現在、ClassPassのDecagonのチャットボットは、クラスのキャンセル、欠席時の手数料の免除、請求や返金に関する問い合わせへの対応が可能だ。同チャットボットはこれまでに380万件の問い合わせに応じ、そのうち60%を人間に引き継ぐことなく自動で解決した。

導入前の対話シミュレーションや、独自の監視AIによる品質管理機能を提供

Decagonのソフトウェアはまた、導入前に対話をシミュレーションすることで、エージェントの性能を検証・調整できるようにしている。対話の文字起こしを分析し、AIエージェントがどこで苦戦しているのか、どう改善できるかを把握するためのパターンや示唆を抽出する。企業は、Decagon独自の監視AI「ウォッチタワー」エージェントも構築可能で、この監視AIによって会話をスキャンし、アップセルの余地を特定したり、AIが医療上の緊急事態や法律助言に踏み込まないようにできる。

チャンはハーバードを中退、ゲーム関連アプリLowkeyを創業しナイアンティックに売却

チャンはまだ若いとはいえ、Decagonが初めて立ち上げた企業ではない。彼は2018年、ハーバード大学のコンピューターサイエンス専攻の課程がスタートアップの創業にあまり役立たないと感じ、1年早く卒業した。その直後に事業アイデアのブレインストーミングを始めたという。「無駄にできる時間なんてないと感じていた」とチャンは語る。同年、彼はゲーム動画の録画と共有を行うアプリLowkeyを創業し、2021年にゲーム開発企業ナイアンティックに数千万ドル(数十億円)で売却した。

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2023年5月、チャンはユタ州で開かれたアンドリーセン・ホロウィッツのイベントに参加した際に、スリーニバスと出会った。2人は高校時代に数学オリンピックで競い合った経験(チャンはコロラド州ボールダー、スリーニバスはインドのケララ州)や、それぞれが会社を立ち上げてきた経歴を通じて意気投合した。

共同創業者のスリーニバスと出会い、コールセンターのコスト課題解決を目指して起業

スリーニバスは、以前にコンピュータービジョン系スタートアップHeliaを手がけ、2020年にデータラベリング企業Scale AIに非公開の金額で売却していた。2人は協力することを決め、最初の数週間は何百通ものLinkedInメッセージを送り、潜在顧客にインタビューを重ね、「どんなAI製品なら料金を払う気になるか」を尋ねていった。

その結果、コールセンターが企業にとって特に大きなコスト負担となっていることを知り、とりわけ急成長中の企業でその傾向が顕著であることに気づいた。「私たちが取り組んでいるのは、業務を徹底して効率化し、顧客企業が500人もの人員を新たに雇わずに済むようにすることだ」とチャンは語る。

開発スピードは「稲妻のように速く」、多くの社員が週6〜7日働く

Decagonの成長が加速する中、チャンは競争力を保つ手段として、従来以上のスピードで事業を進める姿勢を鮮明にしている。OpenAIでスタートアップ支援を率い、正確性やレイテンシーの改善でDecagonと協働してきたマーク・マナラは、Decagonが新機能や評価システムの構築において「稲妻のように速い」と語る。評価システムとは、エージェントが特定のタスクをどれだけうまくこなしているかを検証する仕組みだ。「この分野で本当に優れていなければ、すぐに遅れを取り、最先端から外れてしまうリスクがある」とマナラは言う。

また投資家は、Decagonのオフィスが熱気に満ちていると表現する。全員出社の体制で、多くの社員が週6〜7日働き、時には深夜まで作業するという(社員にはオフィス近隣に住むための手当も支給される)。Decagonに出資していないあるベンチャーキャピタリストは、若くハングリーな創業者が顧客の紹介を求めて何度も自分に連絡してきたと語る。「彼らは、いい意味で非常にアグレッシブだ。勝ち続けたいなら、その姿勢を保たなければならないだろう」と彼は語った。

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forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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