起業家

2025.12.15 10:00

「顧客対応AI」のユニコーン企業、米Decagonを生んだ28歳起業家:30UNDER30

Decagonの共同創業者兼CEOのジェシー・チャン(Photo By Shauna Clinton/Sportsfile for Web Summit via Getty Images)

カスタマーサービス市場は約1.9兆円規模、人手不足とコスト削減の需要が高い

カスタマーサービスは、AIの最も明確な利用領域の1つだ。この分野の市場規模は、調査会社MarketsAndMarketsによると2024年に120億ドル(約1.9兆円)に達し、自動化の余地が大きい。この業界は深刻な定着率の問題を抱えており、多くのコールセンターでは従業員の離職率が平均約40%に上る。人間は、単調な質問に延々と答えたり、怒った顧客の対応をしたりすることを嫌う。人件費も高い。企業は常に、時間とコストを削減し、売上を伸ばすためにAIを導入する方法を探している。Decagonのような企業は、顧客にストレスを与えないスマートなAIを提供すると謳っている。

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複数のAIモデルを組み合わせ、企業データを学習したエージェントが対話を処理

Decagonのソフトウェアは、OpenAI、アンソロピック、イレブンラボなどトップクラスの研究機関が開発した複数のAIモデルを組み合わせて構築されている。学習に用いる企業ごとのデータには、よくある質問、ヘルプセンターの記事、マニュアル、過去の顧客とのやり取りなどが含まれる。Decagonのエージェントは、強力な音声AIモデルを使って顧客と自然で人間らしい会話を交わすことができ、チャットやメールを通じて問い合わせ・苦情に対応する。11月下旬までに累計8000万件の対話を処理したこれらエージェントは、社内データベースや各種ツールにもアクセスでき、注文番号やアカウント情報といった必要なデータを自動的に引き出せる。

Decagonはまた、エージェントが適切に対応できるよう「エージェント運用手順」と呼ぶ仕組みを設計している。これは、誰が問い合わせているかに応じて、どのデータから情報を取得し、どのように回答すべきかをガイドする指示書だ。料金体系は、DecagonのAIエージェントが処理した会話数に基づいており、問い合わせ内容が複雑な場合や音声機能を利用する場合は追加の費用を請求する。

セールスフォースやゼンデスクなど、大手企業がひしめく激戦市場に参入

Decagonは、極めて競争の激しい市場に新参者として飛び込んだ形だ。この市場には、セールスフォース、インターコム、ゼンデスクといった大手が競合としてひしめいている。セールスフォースは、直近四半期にAIエージェント事業で年換算4億4000万ドル(約682億円)の収益を計上、インターコムはイーヴォン・マカヴェCEOによれば有料顧客は約7000社で、Decagonの5倍の収益があるという。そしてゼンデスクは、AI製品を利用する2万社から、2025年2億ドル(約310億円)の収益を見込む。

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「この市場は、これまでになく競争が激しくなっている」と、ゼンデスクの最高技術責任者(CTO)ジェイソン・メイナードは明かす。インターコムのマカヴェはさらに辛辣だ。「Decagonとの性能比較テストでは、毎回、正面対決で勝っている」と述べ、Decagonの顧客を何社か奪ったとも主張した。

これに対し、Decagonの広報担当コールは、インターコムのような「軽量なソリューション」は中小企業にはより適している場合があるとコメントしたうえで、「企業が自社のニーズに合った良い製品を見つけてくれるのであれば、私たちはいつでも歓迎している」と述べた。

最大の脅威Sierraは、OpenAI会長が創業し評価額約1.6兆円を誇る

しかし、チャンにとって最も警戒すべき競合は、Sierraだ。同社は、評価額100億ドル(約1.6兆円)のAIカスタマーサービス系スタートアップで、OpenAI会長ブレット・テイラーが2023年に共同創業した。テイラーは、これまでセールスフォースの共同CEO、フェイスブック(現メタ)のCTO、ツイッターの取締役会長などを歴任してきた。セコイア、ベンチマーク、スライヴ・キャピタルといった著名VCが支援するSierraの年換算収益は、11月下旬に1億ドル(約155億円)を突破した。

「Decagonの競合は、その業界で過去に素晴らしい実績を残したことで著名になり、幅広い人脈を持つ人物を引き込んでいる」と語るのは、ベイン・キャピタル・ベンチャーズのパートナーのアレフ・ヒラリーだ。「Decagonは、そうした利点を持っていないものの、より優れたプロダクトと高い技術力を持っている」と彼は指摘した。

チャンも、その差を認めている。「Sierraやセールスフォースのような大手と比べると、私たちのチームは少し若い」と彼は語った。

投資家はDecagonに注目、評価額を約6200億円へ倍増させる資金を調達

それでも、投資家はDecagonに資金を出したがっている。Decagonは、再び資金調達に動いており、評価額を少なくとも40億ドル(約6200億円)に倍増させることを目指していると報じられた。トップクラスのVCは、チャンとスリーニバスに次々とギフトを贈り(直近では分解されたiPhoneを額装したアート作品など)、バスケットボール観戦にも誘っている。「私たちが顧客獲得で競争しているのと同じで、投資家も特定の企業に投資するために激しく競っている」とチャンは語った。

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翻訳=上田裕資

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