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2025.12.25 14:45

空気ポケットで太陽光を97%遮断、夜露を集める。未来の屋根用ペンキの可能性

Wonderful Engineering

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SF小説のようだが、シドニー大学の研究チームが、建物を冷やしながら空気中の水を集めることができる屋根用ペンキを開発した。スタートアップ企業Dewpoint Innovationsとの共同研究によって生まれたこのナノ工学ポリマーコーティングは、太陽光の最大97%を反射しつつ、その表面で夜露を集めることができる。

屋外実験では、この塗料を使った屋根の内部温度が周囲の空気より最大6℃低く保たれたという。この温度差が凝結を引き起こし、表面に水滴が穏やかに、しかし継続的に生まれていく。シドニー・ナノサイエンス・ハブの屋上でのテストでは、このペンキが年間の約3分の1の期間にわたって水を生成し、1平方メートルあたり1日最大390ミリリットルを集められることが確認された。一見少なく感じるかもしれないが、一般的な家の屋根全体なら毎日数リットルのきれいな水を得られる計算になる。

その影響は非常に大きく、特に、干ばつが頻発する地域にとっては大きな可能性を秘めている。シドニー大学ナノ研究所の研究責任者、キアラ・ネト(Chiara Neto)氏はこう語る。

「この技術は、”冷却屋根コーティング”の科学を前進させるだけでなく、持続可能で低コスト、分散型の水源という新しい扉を開くものです」

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従来の白い塗料が二酸化チタンの顔料で光を反射しているのに対し、この新しいコーティングは色ではなく構造によって冷却効果を生み出す。この塗料は、PVDF-HFPという多孔質のフッ素系ポリマーでできており、無数の微細な空気のポケットが光をあらゆる方向に散乱させる。紫外線を吸収する化学物質を使っていないため、他の反射塗料のような劣化が起きず、オーストラリアの強い日差しのもとでも6カ月間性能を維持したという。

Dewpoint Innovationsの最高技術責任者ミン・チウ(Ming Chiu)博士は、次のように説明する。「UV吸収材を取り除くことで、従来の太陽反射率の限界を克服しつつ、眩しさを抑えた高反射性能を実現しました。現実的な利用にも向いており、過酷な環境でも長持ちします」

さらに、滑らかなトップコートが凝縮した水滴を集水ポイントへ導く役割も果たす。これにより、屋根が小規模な「水の農場」になる可能性もある。湿度の高い地域では家庭用水を、乾燥地帯では農業・冷却・水素生産などに利用できるという。

現在、Dewpoint Innovationsは水性タイプの開発を進めており、一般的な塗料のようにローラーやスプレーで塗布できるようにしている。CEOのペルザーン・メータ(Perzaan Mehta)氏はこう述べる。「これは、エネルギーを使わずに屋根を”水の供給源”へ変えるスケーラブルな解決策です」

この研究は「Advanced Functional Materials」誌に掲載され、持続可能性・シンプルさ・実用性を兼ね備えた稀有な成果とされている。ネト氏は最後にこう語る。「屋根が涼しく保たれるだけでなく、自分で水を作る―そんな未来をこの技術は約束しています」



(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」から翻訳したものです)

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