天文学者たちは最近、「3I/ATLAS」と名付けられた彗星を確認した。これは、太陽系を猛スピードで通過している恒星間天体であり、NASAのチリにあるATLAS望遠鏡によって2025年7月1日に発見された。太陽系外から訪れた天体としては、「オウムアムア」と「ボリソフ」に続く、史上3つ目の確認例である。秒速約68キロメートルという驚異的な速さで飛行する3I/ATLASは、単に速いだけでなく、太陽よりも古く、おそらく約70億年前に誕生した「化石」のような天体だと考えられている。
幸い、現在の軌道上では地球への脅威はない。火星と地球の軌道の間を安全に通過し、10月29日に太陽へ最接近したのち、再び星々の間の空間へと飛び去る予定だ。とはいえ、「もし軌道が変わって地球に向かったら?」と考えると少しゾッとする。要するに、それはただごとじゃすまない、ということだ。
この彗星の氷の核はおよそ直径1キロメートルと推定されており、ガスや塵が広がるコマ(Coma)を含めると全体の幅は5キロメートルを超える。そのサイズは、もし地球に衝突すれば「地域的」から「半球規模」の被害をもたらすほどだ。もし非対称なガス放出や重力の影響など、予期せぬ要因で軌道が変わり地球に向かうことになれば、その速度は恐ろしいものになる。秒速60〜80キロメートルという衝突速度で、放出されるエネルギーはおよそ 5×10²⁰〜2.5×10²¹ジュール、つまりTNT換算で12万〜60万メガトンに相当する。それでも、恐竜を絶滅させた隕石の衝突ほどではない。
それでも、もし衝突が起これば被害は甚大だ。火球は数十キロメートル規模に広がり、陸地に衝突した場合、衝突角度や地質にもよるが直径15〜25キロメートル、深さ数キロメートルのクレーターが形成されると推定される。衝撃波による高圧力は数百キロメートル範囲の建造物を破壊し、強烈な熱放射によって広範囲で火災が発生する可能性が高い。
海洋に落下した場合は、海盆規模の大津波を引き起こす。発生地点付近では波高が50〜100メートルに達し、遠方の沿岸部にも壊滅的な波が押し寄せる。地形によっては、津波が数十キロメートル内陸まで浸水するケースも考えられる。
気候への影響も深刻ではあるが、「大量絶滅レベル」までは至らない。粉塵、硫酸塩エアロゾル、火災による煙が太陽光を遮り、世界の平均気温が1〜3℃低下する可能性がある。この冷却は1年から数年続き、地域差が大きく現れる見込みだ。農業やサプライチェーンには深刻な影響が出るだろうが、5〜10℃もの長期的寒冷化はこの規模の衝突では起こりにくいとされる。もちろん、これらはあくまで理論上の試算にすぎず、この星間彗星についてはまだ確かな観測データが少ない。
幸いにも、NASAのジェット推進研究所(JPL)と小惑星センターによれば、3I/ATLASの軌道は安定しており、最接近距離は約1.8天文単位(地球と太陽の距離の約2倍)。現在は高性能望遠鏡でのみ観測可能で、11月以降は徐々に見えなくなるという。
科学者たちにとって、3I/ATLASは恐怖よりも魅力の対象だ。ニッケル蒸気の多い成分や、放射線で風化した厚い外殻は、星間物質が数十億年かけてどう進化してきたかを知る手がかりとなる。また、高速で飛来する天体への惑星防衛モデルを検証するうえでも貴重なデータを提供する。結局のところ、「もし地球に向かったら?」という仮定は映画の中の話。現実の3I/ATLASは、静かに安全な軌道で太陽系を通過していくだけである。
(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」から翻訳したものです)



