4. マネージャーは、部門を超えて働くことになる
マーケティングのプロセスにAIをたった一つ実装しただけで、業務や財務、顧客サポート、製品開発の流れを変えてしまう可能性がある。その影響の余波は予測不能な場合が多い。
ということは、マネージャーはもはや、部門別にサイロ化された形で業務を進めることはできない、ということだ。成果を上げるためには、チームの枠を超えて連携を図るマネージャーが必要になる。
具体的にすべきことを挙げよう:
・積極的にコミュニケーションを取る:AIツールを導入する前に、マネージャーは次のように問いかける必要がある。「このツールを導入したら、ほかに誰が影響を受けるか」「ワークフローはどう変化するか」「まだ検討していない連携要素は何か」
・問題を共同で解決する:問題が生じた場合、解決するには、複数部門からの意見が必要になることが多い。マネージャーは、抵抗感なくチームの枠を超えて協働し、問題解決に向けたやり取りを進められるようにならなくてはならない。
・責任を共有した体制を構築する:AI導入にあたっては、部門を超えて、誰もが自分ごととして協力しあうことがますます求められる。こうした連携体制をうまく進められるマネージャーは、優れた成果を出す上で有利になる。
5. マネージャーは、新しい「業務部門による開発の時代」の監督者となる
生成AIによって、一般従業員によるボトムアップ型イノベーションが、かつてない規模で可能になった。今は技術職以外の従業員であっても、IT部門の助けを借りずにツールを作成したり、プロセスを自動化したり、問題を解決したりできるようになっている。
とはいえこうした状況によって、セキュリティ、コンプライアンス、データガバナンスを巡る新たなリスクも生じている。マネージャーは実験を促すことと、必要な安全策を確保することのバランスを図らなくてはならない。
そのために役立つ4つの原則を紹介しよう:
・境界線の中での試みを推奨する:従業員がAIツールを試したり、解決策を構築したりできる環境を整えつつ、データセキュリティやプライバシー、コンプライアンスに関して明確な指針を打ち立てよう。
・研修とサポートを提供する:一般従業員による開発においては、AIの能力や限度、リスクに関する基本的な知識が必要だ。マネージャーは、自分のチームがリソースや研修を利用できる環境を整える必要がある。
・レビューのプロセスを整える:従業員がAIソリューションを構築したからと言って、それを一つ残らず運用すべきというわけではない。マネージャーは、質や安全性、組織の定めた基準に合致しているかどうかを評価できる簡単なレビュー体制を整えなくてはならない。
・イノベーションを称賛する:従業員がAIを使って創造性あふれる方法で問題を解決した場合には、その努力を認めて、報いよう。そうすれば、組織内でボトムアップ型イノベーションが高く評価されていることを示すことができる。
マネージャーの役割は急速に進化している
マネージャーの役割は現在、大きく変容している。AIは、すでに進行している変化をいっそう加速させている。つまり、より戦略的な思考や、感情的知性、部門横断的な協力態勢、曖昧さに抵抗を感じず受け入れる姿勢といった変化だ。
AIは、技術的な課題として見えるかもしれないが、根本的には人間の課題であると理解することが、抜きん出たマネージャーの条件だ。技術的な能力を人間的な現実のなかで生かし、効率性と倫理の両方に配慮するマネージャーが求められている。それは、状況が変化し続け、不確実性が広がるなかでも、明確さと共感をもってチームを導くリーダーシップと言えるだろう。


