インターン時代に予測市場を着想し、合法化の壁に直面
レバノン出身のマンスールとロペス・ララは、マサチューセッツ工科大学(MIT)で留学生仲間として知り合った。2人とも専攻はコンピューターサイエンスだった。2007年のレバノン紛争を経験し、独学で英語を身につけたマンスールは、ロペス・ララが授業でいつも最前列に座っていたことを覚えている。2人は共に、2018年にニューヨークのFive Rings Capitalでインターンとして勤務したことで親しくなった。
ある夜、金融街にあるインターン用アパートへ帰る道の途中で2人は、予測市場ビジネスの構想に行き着いた。「市場で起きる多くの取引は、投資家が未来に対して抱く見通しを何らかの形で市場に反映させようとするところから始まる」と、ロペス・ララは以前フォーブスに語っていた。「トレーダーは、選挙の結果や自然災害といった外部の要因を投資判断に織り込んでいる」と彼女は説明した。
2人は、「市場で起きる出来事を、従来の金融商品を介さずに直接取引できる仕組みを作りたい」という思いから、スタートアップ支援プログラムのYコンビネータに応募し、2019年に採択された。しかし、予測市場をめぐる法的位置づけは当時曖昧で、「2人はすぐに壁に突き当たった」とYコンビネータのパートナー・エメリタスであるマイケル・サイベルは振り返る。予測市場を正式に運営するには連邦政府の承認が欠かせないと判明したあと、2人は40以上の法律事務所に協力を求めた。だが、「若すぎる」「会社が小さすぎる」として、いずれの事務所もそれを断った。
「大学を卒業したばかりの私たちは、とんでもないリスクを背負っていた。2年間は製品が1つもなく、何もローンチできなかった。もし規制当局の承認が下りなければ、会社はそのままゼロになるしかなかった」と、ロペス・ララは語る。パンデミック下で彼女がロンドンから事業の構築に取り組む一方、マンスールは故郷ベイルートに戻っていた。2020年8月に港湾で大規模な爆発が起き、200人以上が死亡した惨事の際、彼は現地にいた。事故後の数週間、昼間は自宅周辺の片づけや生存者の捜索を手伝い、夜はKalshiの仕事に取り組む生活を続けた。
弁護士の協力で承認を得て、競合に対する優位性を確立
2人の計画が動き出したのは、1人の弁護士が支援を申し出たことがきっかけだった。商品先物取引委員会(CFTC)での実務経験を持つジェフ・バンドマンが協力に応じ、連邦承認の申請手続きを手伝い、規制当局とのやり取りにも加わった。そして2020年11月、KalshiはついにCFTCの監督下で金融派生商品(デリバティブ)契約を提供できる「指定契約市場(DCM)」としての承認を受けた。これにより、同社の予測市場は「イベント契約」と呼ばれるデリバティブの一種に正式に位置づけられた。
この承認によって、Kalshiは競合の1歩先を行く存在となった。2020年3月に創業したブロックチェーン型プラットフォームのPolymarketは連邦政府に承認されておらず、2022年には未登録の市場を運営したとしてCFTCから140万ドル(約2億2000万円)の罰金を科されていた。一方、Kalshiの共同創業者2人は同年のフォーブス「30 Under 30」に選出されていた。
こうした状況が、しばらくの間はKalshiに優位性をもたらした。しかし構図は次第に変わりつつある。Polymarketは2025年9月に米国内でのサービス提供の承認を受けた。また、Polymarket創業者のシェイン・コプランは10月にニューヨーク証券取引所の親会社から20億ドル(約3100億円)の出資を受け、27歳で最年少クラスのビリオネアとなった。


