起業家のアリ・アンサリ(24)は、人工知能(AI)を使った採用アシスタントのスタートアップ、micro1(マイクロワン)をデータラベリング事業に転換した。これによって、以前は8000万ドル(約125億円。1ドル=156円換算)だった評価額を25億ドル(約3900億円)規模に急騰させた。彼は現在、ヒューマノイド(人型ロボット)向けのデータラベリング市場に挑もうとしている。
採用サービスからデータ事業へ転換、評価額約3900億円の企業に急成長
AI市場の過熱ぶりを語る上で、micro1の急成長ほどわかりやすい事例は存在しない。同社は、2025年の年初には年間売上が700万ドル(約10億9000万円)』程度のAI採用サービスに過ぎなかった。しかし、約8カ月前にAIの訓練データにラベルを付けて注釈を加える「アノテーション事業」へと転換した同社の年換算売上は1億ドル(約156億円)を突破し、評価額を25億ドル(約3900億円)とする出資の提案が舞い込むまでになった(数カ月前の資金調達の評価額は5億ドル[約780億円]とされた)。
アンサリ保有の株式価値は、出資がまとまれば約1560億円超
同社CEOのアンサリにとって、この急成長はまさに激動だった。彼は現在、世界最年少のビリオネアの仲間入りを果たそうとしている。投資家の間で議論されている25億ドル(約3900億円)の評価額でのmicro1への出資話がまとまれば、アンサリが保有する約42%の持ち分の価値は、10億ドル(約1560億円)超になるとフォーブスは試算している。
エンジニア採用の依頼を機に市場の可能性を見出し、事業の軸足を転換
アンサリが最初にAIの訓練分野に関心を持つようになったのは、データのラベリングの大手がエンジニアの採用の支援を彼の会社に求めたことだった。「私たちにとって度肝を抜かれるプロジェクトだった」とアンサリは語る。「2週間で数百人ものエンジニアを採用しようとしている理由がわからなかった。そこで『これはとんでもない市場だ。絶対に注力すべきだ』と思った」。
micro1の競合のMercor(メルコア)も、当初はAIを用いた人材マッチング事業を手がけていた。アンサリは、同社と同様に自身の会社をデータのラベリング分野に転換した。
AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)の訓練データを作成するためのアノテーションやラベリングと呼ばれる作業を請け負う事業は今や、シリコンバレーで最も成長が速い分野の1つとなっている。AIをより賢いものにするためには、人間が学習データに意味を加えるプロセスが欠かせないためだ。
AI研究所の年間支出、現在の年間約2.3兆円から2年後には約15.6兆円を超えると予測
AIの性能は、訓練時に取り込む高品質なデータの量に比例して向上する。そのため、信頼できるデータ提供者への需要は急拡大した。アンサリは、主要なAI研究所がAIの学習データづくりに投じる金額を現在、年間150億ドル(約2.3兆円)規模と見積もるが、この支出が2年後には1000億ドル(約15.6兆円)を超えると予測している。
この分野は急拡大しているが、専門家の見方は割れている。データラベリングが今後、巨大産業に成長するとする意見もあれば、高度なAIが自力で学習できるようになり、人手による作業が不要になると予想する声もある。それでも現時点では巨大ビジネスであり、この数カ月だけで、Mercorの創業者、Surge(サージ)創業者エドウィン・チェンを含む4人の新たなビリオネアが誕生した。



