人を中心に据える哲学に基づき、シミュレーションや独自の指数を用いてトレーナーを管理
micro1が他社と一線を画すのは、アンサリが掲げる「人を中心に据える」という哲学だ。これは、データラベリングに携わる人の体験を最優先に考える姿勢で、応募者にはまずAIによるインタビューを行い、その後に現実の業務に近いシミュレーションを受けさせる。これにより、AIトレーナーが自分の役割を正確に理解した上で業務に取り組めるようにしている。
採用が決まったトレーナーには、「ヒューマンデータマネジャー」と呼ばれる担当者がつく。多くは一流大学を卒業したばかりの若手で、トレーナーがAIトレーニングの業務をスムーズに理解できるよう、作業の流れを案内しながら伴走する役割を担っている。micro1のプロジェクトマネジャーは、トレーナーの満足度を測る「エキスパート・ハピネス指数」に応じて報酬の一部が決まる仕組みだ。トレーナーのパフォーマンスは詳細な分析で評価され、順位づけされる。
「トレーナーが満足していれば、仕事の質が向上し、AIラボが生み出すモデルも良いものになる」とアンサリは語る。
この業界の批判者は、自分たちの仕事を奪うことになるかもしれないAIを人間が訓練している現状を、“不気味だ”と述べている。しかしアンサリは、この新たな職種が実際には無限に近い仕事を生み出し、職を失ったブルーカラー層を救うことになると主張する。
AIトレーニング市場を上回る規模と予測、ロボット向けデータ市場の将来性に期待を寄せる
アンサリが最も期待を寄せているのは、先端ロボティクスを中心に立ち上がりつつあるデータ市場だ。この分野は、いずれ現在のAIトレーニング市場をはるかに上回る規模になると彼は予測している。ヒューマノイドの開発企業には、もともと利用できる訓練データがほとんどなく、LLMのようにインターネットから情報を収集して性能を高めることもできない。こうした企業が必要としているのは、パブリッシャーのサイトやWikipediaをスクレイピングして得られるような情報ではなく、人間が新たに作り、記録することでしか手に入らない種類のデータだ。
スマートグラスなどで日常動作を記録させ、ヒューマノイド開発に必要なデータを収集
そのためmicro1は、ロボット向けの基礎データセットを作る人々に向けて、メタのRay-Banスマートグラスなどのデバイスを詰め合わせたキットを送り、ベッドメイキングや蛇口の修理、食器の片付けといった日常の動作を自身で撮影させる取り組みを進めている。ヒューマノイドが将来、人間の作業の半分であっても担うようになると仮定すれば、必要なデータは膨大で、果てしないプロジェクトになる。それこそが、アンサリがこの市場の将来性に強い自信を抱く理由だ。
「最終的なゴールに到達できるとすれば、それは世界を完全にモデル化できた時になるが、そんな日は永遠に来ないだろう」とアンサリは語った。


