マイクロソフトなど大手企業と取引、専門性の高い人材に最大で時給約8万円を支払うケースも
アンサリは、特定の取引先の名前をマイクロソフト以外に明かしていないが、micro1は複数の先端AI研究所に加えて、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるハイテク大手の大半と仕事をしていると語る。これら企業はすべて、顧客サービスから投資銀行業務までのあらゆる領域の学習データに注釈づけを行う専門人材を必要としている。こうした専門家の多くは高学歴で、AIの出力を評価するタスクで時給60〜170ドル(約9360円~約3万円)を得ている。医療や金融などの分野では、時給が500ドル(約8万円)に達するケースもある。
アンサリは、将来的にはホワイトカラーの専門職だけでなく、ほぼ誰でもAIの「トレーナー」になれると考えている。その未来を見据える彼は、洗濯物を畳むような日常生活のタスクを自身で撮影し、その映像をロボティクス向けAIモデルの学習データとして提供することで報酬を得られるサービスを開発中だ。
「AIのトレーニングは、根本的な変化を経済に与えている。これはまったく新しい職業分野だ」とアンサリは語る。
投資家は当初データラベリングを敬遠、現在ではAIにとって不可欠な要素と認める
micro1に出資する01A Venturesの共同創業者のアダム・ベインは、「データラベリングは最近まで、注目も評価もされない分野だった。投資すべきではないというのが長い間コンセンサスだった」と語る。「データラベリングはもともと非常に単純な作業として始まった。しかし現在では、この業界の本質はAIモデルよりも賢い人材をどれだけ確保できるかに変わっており、事業としての難度は格段に上がっている」。
AIが人間並みの認知能力を持つ汎用人工知能(AGI)に進化すれば、データラベリングは役目を終えてしまうのではないかと投資家は懸念していた。この分野はまた、大量の外部契約者を用いて短期のプロジェクトを手がける事業構造が、魅力に乏しいと考えられてきた。
データラベリング分野への投資経験を持たないAltimeter Capitalのパートナー、ジャミン・ボールは、「どれほどの市場規模が見込めるのかが読めなかった。成熟すれば利幅が薄いコモディティになるように見えていた」と語る。
しかしボールは現在、この見方を改め、データ関連企業への投資を積極的に検討中だ。「AIモデルにとってデータは、酸素のようなものだ」と彼は言う。
市場の変化を読み取る洞察力を武器に、学生時代から続く起業家精神で事業をピボット
データラベリングの起業家として成功するには、AI市場の変化をいち早く読み取る力が不可欠だ。01A Venturesのベインはアンサリの洞察力を高く評価し、「彼は360度型の起業家だ。優れた企業をつくることにも、顧客と向き合うことにも、そして誰よりも働くことにも同じ熱量で取り組む」と語る。
10年あまり前にイランからロサンゼルスに移り住んだアンサリは、10代の頃から起業に取り組んでいた。中学生時代には教科書をeBayで転売する小さなビジネスを始め、高校では数学のオンライン家庭教師プラットフォームを立ち上げ、卒業時に「6桁ドル台前半」で売却することに成功した。バークレー在学中にはソフトウエアのコンサルティング会社を経営していたが、当時、優秀な海外エンジニアを見つけるのはあまりにも難しいと感じていた。そこでアンサリはOpenAIのGPT-3を使い、候補者との対話やスキル評価を自動化するAI採用アシスタントを開発した。このAI採用アシスタントの年間売上が100万ドル(約1億6000万円)を超えた段階で、彼はコンサルティング会社を閉じ、事業を一本化した。その後、アンサリはデータラベリングへと事業の軸足を移した。


