地球を周回するインターネット衛星の数が劇的に増加する中、米航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、地球低軌道にある宇宙望遠鏡を用いた天文観測が今後10年ほどで不可能になる恐れがあることが、科学誌ネイチャー(電子版)に今月3日付で掲載された新しい研究論文から明らかになった。
この研究結果によれば、2035年までに宇宙望遠鏡の画像の最大96%が人工衛星の反射する太陽光によって汚染される可能性があり、天文学的発見の将来をめぐって喫緊の懸念が高まっている。
大気圏より上空に位置する宇宙望遠鏡は、光害の影響を受けないと従来は考えられていた。しかし、低軌道上に展開する衛星の過密化が原因で状況が変わった。
爆発的に増える衛星
この研究報告は、低軌道衛星の打ち上げが空前のブームを迎える中で発表された。地球を周回する稼働中の衛星の数は2019年には約2000基だったが、今や1万5000基に急増。打ち上げコストの低下と宇宙分野の商業化拡大により、増加ペースはさらに加速する見通しだ。実際、現在の衛星数は今後10年間に打ち上げが予定されている衛星の3%にも満たない。
この状況を生んだ主な原因のひとつが、米宇宙企業スペースXの低軌道衛星コンステレーション(衛星群)「スターリンク」である。天文学者のジョナサン・マクダウェルの報告によると2025年12月1日現在、9093基のスターリンク衛星が軌道上にあり、このうち9080基が稼働中だという。
これまで天文学者たちが懸念してきたのは、衛星コンステレーションが地上の天文台に与える影響だった。特に、南米チリのセロ・パチョン山頂で今年始動したベラ・C・ルービン天文台、欧州南天天文台(ESO)が建設中の欧州超大型望遠鏡(ELT)、米豪韓などの国際連携で開発中の巨大マゼラン望遠鏡(GMT)、日本も参画する次世代超大型望遠鏡TMTという、数十億ドルの巨費を投じた4つの旗艦プロジェクトが進行する中、地上からの宇宙探査が光害に阻まれることへの懸念は強かった。
だが、今回の新たな発見は、宇宙望遠鏡すらも光害の影響から逃れられない可能性があることを示している。



