現在の評価倍率は他競技を下回るものの、急成長への懐疑論から割高の指摘も
もっとも、現在の倍率は依然としてNFLの平均10.7倍やNBAの12.9倍を下回る。慎重姿勢を崩せない理由もある。まず、F1チームのオーナーはシリーズそのものや知的財産を所有しておらず、F1の権利は2017年以降リバティメディアが保有している点だ。シリーズの成長は今後も続くとみられるものの、ここ数年のような急成長にはならないとの見方が多い。このため、一部の投資家の間では「現在のチームの評価額は割高ではないか」との疑念も出ている。
特に財務面で下位に位置するチームは、現状では高い評価額を正当化できておらず、黒字化まで数年を要する可能性がある。来季のコスト上限は2億1500万ドル(約333億円)へ引き上げられる予定で、この影響も懸念材料となっている。
年間レース数やスポンサー枠が限られ、供給ボリュームが課題
次に問題となるのは「供給ボリューム」だ。F1の年間カレンダーは24レースにとどまり、放映権を販売できるイベント数は、NFLの272試合やNBAの1230試合と比べてはるかに少ない。高額席の販売機会も限られている。F1マシンのボディに掲載するスポンサーのロゴのスペースも限りがあり、しかも来季の技術規則により、マシンは小型化される見通しだ。
米国では、アップルTVが年間約1億4000万ドル(約217億円)規模の5年契約で、これまで年間約8500万ドル(約132億円)を支払ったESPNに代わって放映権を取得したものの、F1は依然として世界最大のメディア市場で存在感を十分に確立できていない。2025年9月までの米国でのF1の平均視聴者数は140万人で、NASCARの約半分にとどまった。
キャデラック参入や米国市場でのファン層拡大の期待が、評価額の下支え材料に
ただ、F1関係者の間では、評価額を下支えする材料もあるとの見方がある。来季に11番目のチームとして参入するキャデラックは、準備費用に加え、4億5000万ドル(約698億円)の希薄化防止金を含めて10億ドル(約1550億円)超を拠出する見通しだ。米国ブランドのチームが加わることで、Netflixのドキュメンタリー『Formula 1: 栄光のグランプリ』、2025年公開のブラッド・ピット主演映画『F1』の効果で拡大してきた米国のファン層を広げられるとの期待もある。
事業拡大の可能性は米国以外でも残されている。放映権に加え、各国がレース開催のために支払う高額の開催料も重要だ。例えば、中東のジェッダはサウジアラビアGP開催のために欧州の一部レースの倍以上の年間5500万ドル(約85億円)を拠出すると報じられた。
それでもF1の最大の強みは「希少性」にある。キャデラックの参入後もチーム数は11にとどまり、参入を望む投資家は依然として多い。「複雑な財務分析を持ち込んでも意味がない。市場がこうした状況にあるときは、従来の前提は通用しない」と、あるF1投資家は語った。
トップクラスのF1チーム、構造的に黒字を生み出す資産へと変貌
そして何より、メルセデスやマクラーレンを含む上位チームの高い利益水準がある。「かつてF1チームは、毎年多額の赤字を出す点で、一部の米プロ野球チームに近い存在だった」と、別のシリーズ関係者は話す。
「今では状況がまったく違う。平均的なMLB、NBA、NHL、NFLのチームを並べて比較すると、最も近いのはNFLだろう。つまり、トップクラスのF1チームは、構造的に黒字を生み出す資産になったということだ。驚くべき変化だ」。
以下に、「F1チームの評価額ランキング」2025年版の詳細を掲載する(チームの順位などの動向は、英語版記事公開日の11月20日時点のもの)。


