企業がアートや地域活動に取り組むことの意義とは何か。アイウエア事業を展開するジンズホールディングス(以下、ジンズ)は、その答えを創業者、田中仁の故郷である群馬県前橋市の再生プロジェクトを通じて示している。
経済産業省が立ち上げ、Forbes JAPANとともに主催する「ART & BUSINESS AWARD 2025」で、ジンズホールディングスおよび田中仁財団は、地域特性を活かしたアートの取り組みで経済価値を創出した企業・プロジェクトを表彰する「ローカルインパクト部門」を受賞した。「経営哲学」と「まちづくり」を深く融合させたその取り組みは、地域経済に新たな風を吹き込んでいる。
通行量115%増、100以上の新規ビジネス
田中が前橋に関わり始めた2013年、街の衰退は深刻だった。シャッター商店街の典型例として教科書に載るほど人通りは減り、民間投資の魅力も大きく損なわれていた。
まちおこし、地域再生には、再開発や大型商業施設の誘致、イベント開催など手段はさまざま考えられる。しかし田中は、そのなかで建築やアートに特に力を入れていった。
「アートが好き、趣味だ、という人は人口全体から見ればそんなに多くないかもしれない。でもアートには、そんなコアな人たちを惹きつけ、動かす力があります。アートの魅力は吸引力です」
また田中はまちづくりに必要な要素として、「志と情熱と資本」の3つを挙げる。多くのまちづくりプロジェクトは単発のイベントや自治体の補助金に頼りがちという一面もあるが、前橋では、民間主導という形で、10年以上にわたり田中やJINSが牽引をしてきた。
「若い人は、志や情熱はあっても資本がないことが多い。行政は資本はあるかもしれないけど、情熱を持ちづらい構造になっています。そんななかで行政の資本だけを頼りにして、実際地域に根付かないような取り組みをする企業も多いため、行政に民間の本気度が伝わりづらい」
特にこの「資本」の部分、すなわち「民が私財を使って取り組む」という覚悟が、一番苦労をしたともいう行政との信頼関係を築く上で、極めて重要であったと振り返る。

16年には田中が発起人となり、企業家有志による「太陽の会」を設立。前橋市への岡本太郎作「太陽の鐘」の移設を実現し、市道である馬場川通りの整備プロジェクトに太陽の会が3億円を提供した。ほかにも田中は創業300年の歴史を持つ名門旅館を、アートホテル「白井屋ホテル」として21年に生まれ変わらせた。



