結果、馬場川通りの通行量は115%増加(2021年比)するなど、民間による公共空間への貢献の象徴に。藤本壮介による建築に、レアンドロ・エルリッヒやローレンス・ウィナーといったアーティストの作品が融合した「白井屋ホテル」は海外のホテルアワードを多数受賞し、日本はもちろん、世界的にも注目される存在に成長した。
こうした10年以上にわたる継続的な行動と実績こそが、民間主導で行政を動かし、市民の「自信の回復」という定性的な変化に加え、100以上のローカルビジネスを創出。前橋外から参入する人も多く、人流もふくめ、確かな経済効果を生み出している。
部の目標は「人の流れを絶やさないこと」
現在まちづくりの一翼を担うのは、前橋市を拠点とするJINSの地域共生事業部だ。21年の「JINS PARK」のオープンとともに設立された同部が掲げる目標は、「前橋に住みたい人を増やし、人の流れを絶やさないこと」。人がいなくなっては商売が成り立たないという本質的な危機感を背景に、通常の事業部が負う売上や利益とは異なる長期的な視座をもつ。
そのための活動として、子どもたちが表現できる力を身につけるためのアートワークショップの企画・運営や、地域住民が自発的に活動するための場の提供、イベントのコーディネートを実施。「JINS PARK」では年間100回以上の地域イベントを開催するなど集客や売上に貢献しており、地域の生活者自身の力でイベントを自走させている。

田中仁財団としての田中の活動と、地域共生事業部の活動が一体となり、「有機的につながってプロジェクトが動いている」のが前橋の現状なのだという。
「上からの命令で動くのではなく、それぞれが『楽しそうだ』と感じることを起点に自然発生的に多くのことが生まれています。そしてそれを可能にしているのは、確かなビジョンを共有していることです」
そのビジョンとは、官民共創事業として15年に前橋市が策定した「めぶく。」。まちづくりの関係者のみならず、継続的な情報発信などを通じて地域住民とも未来像の共有ができている。
地域活動がグローバルビジネスにつながる
当初は「お金も時間も精神も、エネルギーが出るばかり」で、本業へのリターンはないと考えていたという本活動。しかしその結果、社会的評価が高まり、信用という無形の資産がビジネスチャンスを生んでいる。
例えば、アメリカ・ロサンゼルスにおいては、日本ブランドの出店が難しいとされる高感度なエリア「アボットキニー」で、アートやまちづくりの取り組みをプレゼンし貸主と縁を得た。同様に、東京・銀座でも、「地域や建築への取り組みをやっている人なら」とつながりを得て、中央通りに面した一等地に26年春に初のグローバル旗艦店オープンを予定している。


