1944年、現在の米国中央情報局(CIA)の前身にあたる戦略情報局(OSS)は、『誰にでもわかる妨害工作実践マニュアル(Simple Sabotage Field Manual。以下、サボタージュ・マニュアル)』を作成した。
これは、第2次世界大戦中の当時、敵国であった枢軸国の占領下にある地域の一般市民を対象に、敵国の作戦を妨害する方法を記した指南書だ。このマニュアルには、鉄路や通信線、製造工場などを破壊するやり方が記されていたが、最も興味をそそられるのは、爆発物や諜報活動に焦点を当てたものではなく、官僚組織を内部から妨害する方法が記されたセクションだ。実は同マニュアルでは、単純で予測可能な、オフィスで非常によく見かける行動の数々を、妨害策として勧めていたのだ。
このサボタージュ・マニュアルでは、妨害工作を行なう者に対して、会議ではすでに決着がついた問題を蒸し返し、再検討を促すよう指示している。その際には、すべての行動を可能な限り遅らせる経路で進めるべきだと主張し、あらゆる機会を突いて本題に関係ない問題を持ち出し、単語やフレーズの選択に関する議論に過剰に時間を割くべきだとしていた。これらの戦術は、敵国の意思決定プロセスを確実に停滞させる手段と考えられていた。
『サボタージュ・マニュアル』に書かれた妨害行動に見覚えがあるわけ
現代の組織で時間を過ごしたことがある人なら誰でも、このマニュアルに指示されている行動のパターンに見覚えがあるはずだ。組織の上層部が、このマニュアルを最初に読んだ時に見せる反応は常に同じだ。まずは多少の笑いが起きたのちに、場が静まり返る。自身が参加するミーティングでも、これらの行動が、空恐ろしくなるほど頻繁に登場することに気づくからだ。
誰もが意図的に会社を妨害しているわけではないが、実際の影響はほとんど同じだ。ミーティングが堂々巡りの議論に陥って意味をなさなくなったり、1度決まったことが蒸し返されたり、脇道にそれて戻って来られなくなったりした場合、そのミーティングは何も生み出さなくなる。議論の勢いはしぼみ、明確さは消え去り、ミーティング参加者は不満を抱くことになる(そして、実際の行動にはまったく結びつかない)。
真の問題は、誰も止めようとしないこと
だが真の問題は、こうした行動が起きることではなく、こうした行為を誰も止めようとしないことだ。本題からそれた時にそれを認識し、非生産的なパターンに注意を促し、解決に向かう本筋にグループを戻す任務を負った人物がいない場合は、非常に高い能力を持つ人材がそろったグループであったとしても、成果を出すのに苦労するものだ。



