太陽の巨大な重力を利用して、遠方にある天体を観測する画期的な最新光学望遠鏡を開発する構想に、米国と欧州の天文学者チームが精力的に取り組んでいる。
湾曲空間望遠鏡とも呼ばれるこの「太陽重力レンズ(SGL)望遠鏡」は、太陽系の外れに位置し、太陽の重力を利用して約650天文単位(AU、1AUは太陽地球間の距離)先の焦点で驚異的な光学画像を取得する。SGL望遠鏡は理論上、この観測点から太陽系外惑星、銀河、超大質量ブラックホールなどの非常に精密な画像を取得できると考えられる。
この技術の要は、物理学者アルバート・アインシュタインの一般相対性理論にある。同理論によると、恒星や銀河などの巨大な質量を持つ天体は重力によって時空を歪める。天文学者は数十年前より、アインシュタインのこの発見を利用して銀河や太陽以外の恒星を公転する惑星を重力レンズで観測している。
だが今回の取り組みでは、天文学者は重力レンズを次なる段階に引き上げることを目指している。
NASAジェット推進研究所(JPL)のベテラン天体物理学者スラヴァ・トゥリシェフと研究チームは2020年、NASAの革新的先進概念(NIAC)プログラムの一環として、SGLと命名した重力レンズ望遠鏡に関する包括的な研究を行った。一方、イタリア・ピサ大学が主導する欧州の研究チームは、開発プロジェクト「湾曲空間望遠鏡」に取り組んでいる。
JPLのトゥリシェフは取材に応じた電子メールで、SGL構想では太陽周囲の時空の自然湾曲を利用し、光を約1000億倍に増幅できると語っている。これにより、SGLは系外惑星の表面の特徴を直接撮像することが可能な、知られている唯一の方法となるという。
地球型系外惑星を直接撮像
この技術が最初に応用されるのは、生命存在に適しているとすでに考えられている系外惑星を対象とした観測である可能性が最も高い。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の惑星科学者で、世界的な系外惑星研究者のサラ・シーガーと研究チームは、この技術の活用に非常に興味を持っている。
シーガーは取材に応じた電子メールで、研究チームの主な興味は、SGLを用いて数十光年先の地球型系外惑星を直接撮像することにあると語っている。



