アジア

2025.12.08 12:30

安い石油か、高い代償か ロシア産原油を巡るインドのジレンマ

インドの首都ニューデリーで会談する同国のナレンドラ・モディ首相(右)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領。2025年12月5日撮影(Elke Scholiers/Getty Images)

インドの首都ニューデリーで会談する同国のナレンドラ・モディ首相(右)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領。2025年12月5日撮影(Elke Scholiers/Getty Images)

インドはこの2年でロシア産原油の最大級の輸入国となった。これにより、インドは数十億ドルの節約を実現した一方で、ウクライナで戦争を続けるロシアに財政的な命綱を与えている。

ウクライナの国会に当たる最高会議のオレクシー・ホンチャレンコ議員がインド当局者に宛てた厳しい文言の書簡が波紋を呼んでいる。同書簡は、インドの安値買いがウクライナ侵攻を長期化させているとして、ロシア産原油の大部分を精製するインドの大手石油精製企業リライアンス・インダストリーズのムケシュ・アンバニ会長に対し、欧州連合(EU)が制裁を科すよう要求している。

この書簡がインドの貿易政策を変える可能性は低い。だが、これは深刻な地政学的緊張を浮き彫りにしている。インドは自国経済を国際的な石油危機から守ろうと試みる中で、ロシア産原油への依存度を高めてきた。しかし、両国の関係が深まるほど、インドは外交上の余波に対処するのが難しくなるだろう。

筆者の取材に応じたウクライナのユリヤ・メンデリ元大統領報道官は、インドによるロシア産原油の割引購入がロシアの戦争資金調達を助長していることに、ウクライナ政府がいら立ちを募らせていると指摘した。この懸念はホンチャレンコ議員の書簡にも示されている。「インドが割引価格で輸入する原油1バレルごとに、ロシアは戦争を続けられる日数を1日延ばすことができる」

インドにとって、理屈は単純だ。ロシアは主要国への原油輸出に大幅な割引を適用し、1バレル35ドルまで値下げすることもあった。これにより、インドは国内の消費者を原油価格の急騰から保護し、インフレを抑制することができた。同国では現在、原油輸入の約3分の1をロシア産が占めているが、ウクライナ侵攻開始前はほぼゼロだった。

他方で、エネルギー安全保障には地政学的な代償が伴う。欧州がロシアからの輸入を大幅に削減したため、インドと中国は現在、ロシアの海上石油輸出の9割以上を占めるようになった。欧米の制裁にもかかわらず、両国は莫大な収入をロシアにもたらしている。

ホンチャレンコ議員の書簡はその実態を捉えている。同書間は、インドの億万長者アンバニ会長のリライアンスが割引価格で購入したロシア産原油を加工し、精製燃料を輸出する拠点となっており、その一部は最終的に欧州へ輸出されると指摘している。同議員はEUに対し、アンバニ会長への制裁と、エストニアにある同社子会社の調査を強く求めている。その上で、こうした措置により「制裁回避の仕組みを阻止し、国際的な安全保障を強化することができる」と訴えている。

EUがそこまで踏み込むかどうかは不明だ。しかしこの書簡は、EU当局者が密かに議論してきた問題に、人間的かつ政治的な側面を与えている。西側諸国は、ロシアの戦争を資金面で支えるインドをいつまで容認し続けることができるのだろうか?

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翻訳・編集=安藤清香

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