ロシア経済を支えているのはインドだけではない
ロシア産原油を輸入している国はインドだけではない。中国はさらに多くの原油を輸入している。トルコとアラブ首長国連邦(UAE)は、ロシア産燃料の再輸出の主要拠点となっている。また、ロシアが制裁を逃れて原油を輸出するのを助ける「影の船団」、つまり合法と違法のはざまで運航する無保険の老朽化した船舶も増え続けている。
インドは、自国の製油所でロシア産原油が処理されると、その製品は貿易法の下ではインド製となり、もはやロシア産とは見なされないとしている。EUは、多くの加盟国が依然としてこれらの精製燃料に依存していることを認識しており、この実態を黙認している。
専門家は、インドがロシア産原油の輸入を停止した場合、世界の燃料価格が急騰し、米ボストンから独ベルリンに至るまで、あらゆる地域の消費者に打撃を与える可能性があると警告している。この価格急騰は、インドの突然の撤退により、割引価格のロシア産原油の主要な供給源がなくなることで供給が逼迫(ひっぱく)し、基準価格が押し上げられるために発生すると考えられる。この価格急騰の可能性を恐れ、西側諸国はインドに対して積極的に圧力をかけにくくなっている。
こうした懸念はあるものの、地政学的な利害関係は明白だ。インドの原油輸入による収入は今やロシアの軍事機構にとって不可欠であり、ウクライナ政府の不満は高まっている。ウクライナのメンデリ元大統領報道官は、戦争による経済的な損害は甚大で、ロシアにとっては政府を支えるあらゆる貿易が極めて重要になっていると指摘した。ドイツ国際安全保障研究所の経済学者ヤニス・クルゲ博士は米紙ワシントン・ポストに対し、インドや中国の原油輸入量が大幅に減少すれば、ロシアの財政に深刻な影響を与えるだろうと説明した。
インドはロシアとの貿易関係を再調整する道義的責任を感じていないかもしれない。しかし、戦争が長期化する中、ウクライナは欧州各国政府に直接訴えかけており、インドの戦略は容易に無視できないほど注目を集めている。
ウクライナのホンチャレンコ議員の書簡が提起した疑問は、恐らくこれほど明確に提起されたのは初めてだが、ロシアにとって欠かせない原油の輸出先としてのインドの役割が、世界中の多国間フォーラムや戦略的パートナーシップで尊敬される存在になるという同国の野望と相容れなくなっているのではないかという点だ。独立と主権を誇りとするインド政府にとって、この緊張関係を無視することは、この地政学的力学で最も代償の大きい側面となるかもしれない。


