アジア

2025.12.08 12:30

安い石油か、高い代償か ロシア産原油を巡るインドのジレンマ

インドの首都ニューデリーで会談する同国のナレンドラ・モディ首相(右)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領。2025年12月5日撮影(Elke Scholiers/Getty Images)

インドは石油を必要としている

インドは自国の戦略の取引的な性質を決して隠してこなかった。ウクライナ侵攻開始以前、ロシア産原油はインドの原油輸入のごくわずかな割合を占めるに過ぎなかった。ところが侵攻開始以降、ロシア産原油の割合が急拡大し、インドの原油輸入の35~40%を占めるようになった。

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インド当局者は、14億人の人口を抱える国が、経済的安定より地政学上の問題を優先するわけにはいかないと主張している。同国のナレンドラ・モディ首相は、「インドは常に国民の最大の利益のために行動する」と表明している。スブラマニヤム・ジャイシャンカル外相はさらに率直に「われわれは国際価格を調整する立場にはない。自国のエネルギー資源を確保する役割を担っているだけだ」と強調した。

インドの視点から見ると、値下げされたロシア産原油は供給を補完し、国内の精製業者の利益を維持し、他国の経済を揺るがした石油危機から自国を守る安全弁として機能してきた。経済的な利点は甚大で、地元紙インディアン・エクスプレスによると、2022~23年、ロシア産原油の最終価格がそれ以外の原油より1バレル当たり13ドル前後安かったため、インドは約48億7000万ドル(約7600億円)を節約した。23~24年には割引幅は縮小したものの、原油生産量が6億900万バレルに増加したことで、節約額は54億1000万ドル(約8400億円)に達した。一部報道によれば、原油の輸送費、保険料、陸揚げ費用を差し引いた年間の純利益は25億ドル(約3900億円)に近いとされる。アナリストらは、割引幅が縮小し、市場環境が正常に戻れば、経済的利益は減少する可能性があるとみている。

インドによるロシア産原油輸入は、欧米の制裁を無力化している。ウクライナ侵攻開始当初、ロシアの財政赤字は拡大したが、欧州が輸入を拒否した原油をインドと中国が吸収したことで安定化した。欧米の制裁で価格上限や輸送規制が強化されても、ロシアの石油収入は戦争の継続を支えるのに十分な強さを維持している。

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興味深いことに、米国は長い間インドを戦略的パートナーと見なしてきた。実際、米国のドナルド・トランプ大統領はかつてインドを熱烈に支持していた。だが、同大統領は最近、同国が米国の通商政策を悪用しているとして、批判する立場に転じた。

ウクライナ侵攻を巡っては、トランプ大統領はおおむねロシア寄りの立場を取っているが、同国産原油の輸入を続けるインドに対しては非難を強めている。同大統領の批判はウクライナを考慮したものではなく、全て経済ナショナリズムに関連している。トランプ大統領はかねてより、インドが貿易で米国を「搾取している」と主張してきたが、インドが割安なロシア産原油に依存している事実は、同大統領にその主張を裏付ける新たな材料を与えるだけだ。トランプ大統領の世界観では、同盟国も敵対国も地政学的な関係より、米国を犠牲にして黒字を計上しているかどうかで評価されるのだ。

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翻訳・編集=安藤清香

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