アジア

2025.12.08 14:15

たった1人の元開発者によって引き起こされた韓国の未曽有の個人情報漏洩事件

Catsby_Art / Adobe Stock

韓国政府が実施した社会安全認識調査では、国民10人のうち6人が「個人情報流出に不安を感じる」と回答し、この割合は2年前よりも4ポイントから5ポイント上昇した。近年は、通信大手やプラットフォーム企業での大規模情報漏洩も相次ぎ、デジタル社会全体への信頼がじわじわと侵食されている。

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前出のクーパンの事例では、事実上「ほぼ全顧客」のデータが流出したとの報道もあり、利用者の間では「どのサービスも安全とは言えない」という諦めと、「それでも便利さを手放せない」という葛藤が同居している。

SNS上では、「クーパン退会」や「クレジットカード情報削除」を報告する声と同時に、「退会してもすでに漏れたデータは戻らない」という虚脱感も広がっている。

クーパンの流出が明らかになった後、韓国政府は関係閣僚会議を緊急招集し、被害規模の確認と再発防止策の検討に着手した。官民合同調査団を立ち上げ、ハッキング経路や管理義務違反の有無を詳細に調べている。

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また、政府の個人情報保護委員会は、アクセス制御や暗号化など、クーパン側の保護措置が適切であったかどうかを審査しており、違反が確認されれば巨額の課徴金や是正命令が下される可能性がある。一方で、流出元が海外にいる元社員であるという事情から、刑事捜査や実効的な制裁にどこまで踏み込めるかが課題となっている。

こうした事態に対して、韓国国民は主に3つのレベルで対処しようとしている。

第1として、個人レベルでは、パスワードの変更や2段階認証の導入、不要なオンラインアカウントの整理など、「自己防衛」を強化する動きが広がっている。フィッシングやスミッシングに対する警戒も高まり、見慣れないリンクや添付ファイルを開かないことが半ば常識として共有されつつある。

第2に、集団レベルでは、被害者コミュニティやオンライン掲示板を通じて情報を交換し、集団訴訟や監督機関への申訴を検討する動きが見られる。これらの場面では、単なる怒りの表出だけでなく、「どこまでが企業の責任か」「国家はどこまで補償すべきか」といった制度論的な議論も行われている。

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文=アン・ヨンヒ

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