起業家

2025.12.08 12:00

「DJI排除」を狙う米ドローン新興の25歳起業家、著名VCから240億円調達

2025年9月30日に開催された「Forbes Under 30 Summit」に登壇したブレイク・レスニック(Photo by Astrida Valigorsky/Getty Images)

2017年のラスベガス銃乱射事件を機に、警察へのドローン導入を掛け合う

Brincの起源は2017年10月にさかのぼる。当時17歳だったレスニックの自宅から、20分程度の場所で銃乱射事件が発生した。犯人はラスベガスの繁華街沿いのホテルの32階の部屋から、音楽フェスティバル「Route 91 Harvest Festival」の来場者を無差別で銃撃し、58人が死亡し、400人以上が負傷した。10歳の頃からドローンを作り続けてきたレスニックは、「警察はなぜ、こうした場面でドローンを使わないのか」と疑問を抱き、地元警察に面会を求め続けた。

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ラスベガス都市圏警察のウィル・ハドラー警部補は、地元のカフェに現れたひょろりと背の高い縮れた茶色い髪の少年が、「僕なら、消費者向けドローンとはまったく違う、SWAT専用機能を備えたドローンを作れる」と主張するのを半ば疑いながら聞いた。それでもハドラーは、この若者にチャンスを与え、「90日以内に試作品を作れ」と命じた。

試作機の実演は失敗に終わったものの、ドローンへの執着を持ち学び続ける

レスニックはすぐに作業を始め、主に中国製の部品を寄せ集めて両親のダイニングテーブルの上でドローンを組み立てていった。そして86日目、40人のSWAT隊員を前に試作品を披露したが、結果は散々だった。隊員の1人がタオルでひょいと叩き落としただけで、実戦にはとても使えない代物だと分かった。

だがレスニックは諦めなかった。幼少期から玩具・ドライヤー・電子レンジなどの身の回りのガジェットを分解することに打ち込んだ彼にとって、ドローンはその延長線上にある「執着」そのものだった。幼い頃に失読症と診断された彼は、補習クラスに通ったことが結果的にプラスに働き、6年生を飛び級し、高校も1年半で終えて、14歳でネバダ大学ラスベガス校に進んだ。

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マクラーレンやテスラでインターンを経験した彼は、その後ノースウェスタン大学に編入して機械工学を学んだ。途中、数カ月休学してカリフォルニア州パロアルトのDJIでインターンを行い、世界的メーカーがどのように製造を行っているかを目の当たりにした。だが大学に戻ることはなく、2017年初めに退学して、自身でドローン作りに挑む道を選んだ。

ラスベガスのSWATチームと共同で、のちの主力機「Lemur」を開発

ラスベガス警察での失敗に終わったデモから3カ月後、レスニックは再び連絡を入れた。今度は、横倒しになっても自動で体勢を立て直せるドローンを携えていた。ハドラー警部補はこれに感銘を受け、レスニックをSWATチームの実習に同行させることにした。彼は当時を振り返り、「あの見事な髪をヘルメットに押し込んでいた」と笑う。こうしてレスニックとラスベガスのSWATチームは共同で、のちに主力機となる「Lemur」を開発した。Brinc(正式名称はBlake Resnick Inc.)は2018年に正式に法人化し、ラスベガス都市圏警察が最初の顧客になった。

創業後の2年間、Brincはレスニックただ1人のワンマン企業だった。転機になったのは、ペイパルの共同創業者ピーター・ティールが立ち上げた、大学を離れて起業する若者を支援するプログラム「ティール・フェローシップ」から10万ドル(約1600万円)を得たことだった。しかし、売上は年間10万ドル(約1600万円)に届くようになったものの、事業を本格的に拡大するにはさらなる資金が必要だった。

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翻訳=上田裕資

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