宇宙

2025.12.05 14:30

宇宙望遠鏡が捉えた「混沌の神」 四重の塵の殻をまとった終末期の三重連星系アペプ

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中赤外線観測装置(MIRI)が捉えたウォルフ・ライエ連星と第3の超巨星からなる三重連星系天体「アペプ」と、周囲に渦巻く4重の塵の殻(NASA, ESA, CSA, STScI, Y. Han (Caltech), R. White (Macquarie University), A. Pagan (STScI))

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中赤外線観測装置(MIRI)が捉えたウォルフ・ライエ連星と第3の超巨星からなる三重連星系天体「アペプ」と、周囲に渦巻く4重の塵の殻(NASA, ESA, CSA, STScI, Y. Han (Caltech), R. White (Macquarie University), A. Pagan (STScI))

米航空宇宙局(NASA)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、珍しい三重連星系の天体「アペプ」の驚きの姿を捉えた。公開された最新画像からは、入れ子構造の塵の殻(シェル)が同心円状に外側へ広がっていく壮大な様子が見て取れる。

アペプは南天の星座・じょうぎ座の方向、約8000光年先にある。名前の由来はエジプト神話における闇と混沌の化身アペプ(アポピス)だ。この混沌とした連星系は、互いの重力で引き合いながら共通の重心を中心に公転する2つの恒星と、それらを周回するより大質量の第3の超巨星で構成されている。

非常に稀な「ウォルフ・ライエ星」の連星系

アペプが特異な点はそれだけではない。重力的に結合した2つの恒星は「ウォルフ・ライエ星」という、それ自体が非常に珍しい天体なのだ。ウォルフ・ライエ星は死にゆく大質量星で、超新星爆発を起こして一生を終える最終段階にあると考えられている。天の川銀河にウォルフ・ライエ星は約1000個しかないとみられ、しかも連星を構成する恒星の2つともがウォルフ・ライエ星の連星系はこれまでアペプしか見つかっていない。

2つのウォルフ・ライエ星はこれまで約700年かけて環状の塵の殻を放出してきたが、その実態はこれまでほとんど観測できていなかった。地上の望遠鏡を用いた以前の観測では、1層の殻しか確認できなかったのだ。JWSTの最新画像では3層の殻がはっきり見え、その外側にほぼ透き通った4層目の殻が写っている。

「唯一無二」の恒星系

この画像が捉えたのは、互いに引き合って公転する2つのウォルフ・ライエ星が接近した際、双方が吹き出す強い恒星風(恒星表面から放出されるガスの流れ)が衝突することによって生じた塵の構造である。研究チームは、この連星が190年周期で公転し、25年間にわたる接近期間中に新たな塵を形成すると結論づけた。

「この天体は、非常に稀な公転周期を持つ唯一無二の連星系だ」と、科学誌アストロフィジカル・ジャーナルに11月に掲載された論文の筆頭著者で豪マッコーリー大学の博士課程に在籍するライアン・ホワイトは指摘。「塵の多いウォルフ・ライエ連星系において、アペプの次に長い公転周期は約30年で、大半のウォルフ・ライエ星の公転周期は2~10年だ」と説明している

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翻訳・編集=荻原藤緒

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