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2025.12.12 08:15

オフライン回帰が、これからのエンタメを左右する 電通創造進化論――金林真の場合

草薙素子が予言していたこと

——「運転する」から、「運ばれる」へ。こうした変化で人間の生活や仕事は効率化されますが、その時、人間には何が求められると思いますか?

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金林:既に「攻殻機動隊」で言及されているんですけど、それは好奇心です。「私は情報の並列化の果てに個を取り戻すために1つの可能性を見つけたわ。好奇心。多分ね」という草薙素子のセリフです。タチコマちゃんたちが並列化を繰り返していって個性を失うシーンで、個性を発揮するのは何なのかっていう話をしているところです。

今の状況も似ていて、SNSによって情報が並列化、平準化されています。例えば、万博の裏技が出回るのは、並列化の末に起きることです。そこには最初に見つけた人がいて、その人の好奇心がシェアされた結果なわけです。今後は好奇心を伸ばす教育とか、好奇心を最大化させる拡張が人間に行われていくんじゃないかと思っています。

——好奇心を最大化する。

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金林:好奇心がないと、AIに対して問いが立てられないんですよ。話が飛ぶんですが、私はガジェットが好きで、欲しいと思ったものを求めて平気で海外に行っちゃったりするんですよ。で、その訪問した場所をうろうろ歩く。面白いものや風景が見つかる。やっぱり歩かないと偶然の出会いはやってこないですよね。

エンタメの姿も、こうした歩くことに代表されるような、オフラインのエンターテインメントが贅沢品として重要視されてくると思います。

——たとえば?

金林:この前、ラスベガスで、スフィアという超でかいLEDスクリーンの球の中に観客が入って楽しむエンターテインメントを体験してきました。映画「オズ」を大きいスクリーンに拡張して、さらに演出を加えているんです。

例えば、火が燃えるシーンでリアルな炎が出てきたり、翼の生えた猿が出てくるシーンでラジコンみたいな猿が飛び回ったりする。スクリーンとフィジカルな体験を連動させて、リアルだからこそ楽しめるものを追求していました。今後、こういうものが増えるだろうなって思いました。

—— VRの没入観だけでは物足りないわけですね。

金林: 普通に家で体験するVRでは風は吹いてこないし、炎の熱さも感じない。スフィアではリンゴに見立てたスポンジボールが落ちてきて、みんながワアワア言って拾っていました。あちこち歩き回ったり、走り回ったりして。こういう雰囲気が醸成されるのがリアルとバーチャルの一つの違いです。

アーティストのライブも同じで、VRだと特等席から見られるけど、周りの観客の熱気とか、その時にしか発生しないプレミア感は存在しない。映像とは違う体験ができるから、リアルなライブは面白いんです。 

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text by Yuri Nakausa/ photographs by Yuta Fukitsuka

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