テクノロジーとそれを支える人間力をベースに不動産業界やM&A業界の課題に切り込み、急成長を遂げている「GA technologies」。そんな同社の経営陣7名のミッションや経営信条を、7回にわたって紹介する。5人目は、GA technologies執行役員でITANDI取締役 執行役員 COOの井口俊介だ。マネジメント改革への取り組みやビジョンについて話を聞いた。
GA technologiesグループのイタンジは、不動産会社の物件情報と入居手続きをオンラインでつなぐリアルタイム不動産業者間サイト「ITANDI BB」を中心に、不動産賃貸や売買の取引に関する一連の業務を効率化するDXサービス(「ITANDI 賃貸管理」「ITANDI 賃貸仲介」「ITANDI 売買 Propocloud」)を提供している。井口は昨年、そのITANDIの取締役執行役員 COOに就任した。
経営レベルを引き上げたチャレンジを求めて
井口は、大学卒業後に米系ヘルスケア企業にてセールス・マーケティングに従事。その後、2年間をかけてアメリカにてMBAを取得。帰国後は医療従事者向けプラットフォームなどを展開するエムスリーに入社した。事業責任者やグループ会社の社長を任され、自らが描いていたキャリアを順調に歩んでいた。ところが2024年、知人に紹介されたGA technologies代表の樋口龍との出会いが運命を変える。
「ITANDIの事業統括にふさわしい人材を探しているということで、樋口社長にお会いしました。それまで転職なんてまったく考えていませんでしたが、10日後には『入社します』とお返事していました」
GA technologiesグループへの参画を決断したポイントは、3つあったという。
「それまでも責任のある仕事を任されてきましたが、社長とより近い距離で事業のすべてにおいて責任を負うような、経営レベルを引き上げるチャレンジに魅力を感じていました。ここならそれを実現できると感じたことが1つ目のポイントです。2つ目は、プラットフォーマーであることです。世の中に多くのSaaSがありますが、多くは個のプロダクトを1つひとつの会社に販売するビジネスモデルで、例えばA社・B社にそれぞれサービスを導入しても、サービス自体の価値は変わりません。一方でプラットフォーマーであるITANDIは、サービスの導入企業を含め、参加するプレイヤーが多いほどサービスの価値が増していきます。それに加えて、GA technologiesグループとしてリアル領域までカバーしていることも魅力でした。そして3つ目は、テクノロジーの力で社会を変革し、世界のトップ企業を目指すという大きなビジョンに共感したことです」
こうして2024年7月、井口はGA technologiesグループに加わった。前職でもバーティカルSaaSの事業運営を行ってきた井口は、バーティカルSaaSには扱う業界への理解が何よりも大切だと強調する。
「ホリゾンタルSaaSは経理や契約管理など、どの業界にも存在する汎用的な機能を提供しますが、バーティカルSaaSは、特定の業界に特化したサービスを提供する。言ってみれば、サブ業務とメイン業務との違いです。バーティカルSaaSはメイン業務をサポートするので、ユーザーの本気度が高い。それだけにサービスを提供する側は、業界や事業に対する深い理解がなければなりませんし、ユーザーからはより高い品質が求められます。言い換えると、それは業界の本質にアプローチできるということであり、そこにやりがいを感じています」
サービス品質を高め、業界の本質にアプローチするために井口がまず着手したのは、マネジメント体制の刷新だ。GA technologiesグループの傘下に入ることでイタンジは急成長してきたが、井口の目から見ると、まだ未完成な組織だったという。
「私の入社当時、まだプロダクトごとのKPIマネジメントが未成熟で、機能開発や売上目標の設定があいまいになりやすいという課題がありました。それを精度高く管理するために、まずは組織改編を行いました。以前は、セールス、カスタマーサクセス、エンジニアの各部門が全プロダクトに横断して関与していましたが、セールスとカスタマーサクセスに関しては、『賃貸仲介支援』『賃貸募集支援』『賃貸管理支援』『施工支援』『売買支援』の5つを軸とした事業本部制を導入し、各プロダクトに関する意思決定をそれぞれの事業本部内で完結できるようにしました」
巨大インフラを起点に新規事業を創出
組織改編により、各事業部門のゴールがより具体的になり、それに基づくKPI設定の方向性も明確になったという。ただし井口に言わせれば、KPIを設定する目的は、目標数字の達成だけではない。会社が目指す方向に社員たちの目線や行動を合わせるためでもあるという。
「ITANDIセグメントに所属する300人以上の人たちを動かすためには、一人ひとりがやるべきことと会社や事業が目指していることがつながっている必要があります。KPIを設定する目的は、事業計画を確実に達成することにあります。そのためには、会社のビジョン・方針が段階的にブレイクダウンされ、最終的に一人ひとりの『何をすべきか』まで一本の線でつながっていることが理想的だと考えています」
そうすることで、一人ひとりのパフォーマンスが見える化され、どの部署に課題があるかがわかるので、改善に向けたアクションを起こしやすくなるという。こうした精緻なKPI設定は、顧客のLTV(顧客生涯価値)の最大化にも寄与するという。
「SaaSにおいて、顧客との接点が最も多いのはカスタマーサクセスなので、私はここを非常に重要なポジションだと考えています。ところが従来では、カスタマーサクセスのミッションに関するKPIは、プロダクトを入れた段階で止まっていました。しかし実際には、顧客がプロダクトを使いこなして価値を得るところまでが私たちの責任です。今では、日々コミュニケーションを取ったり顧客に伴走したりしながらサービスの価値を感じていただき、他の一連のサービスも導入・活用いただくところまでをKPIに織り込んでいます。また、セールス評価基準にも、顧客がサービスを活用し価値を得ていただくフェーズまで到達しているかどうかを入れており、部署横断で取り組む仕組み化も行っています」
マネジメント体制の刷新に続いて井口が取り組んだのは、組織力の強化だ。
「GA technologiesグループが掲げている非常に高い目標を達成するためには、毎年かなりの増員をしていかなければならなりません。そのため、人材を育成して戦力化するとともに、会社のビジョンや取り組みへの共感をより高めていくための場を設けるなど、組織づくりにも力を入れています。」
一人ひとりの力を高めるために、エンプロイーサクセスを向上させるための取り組みも行っているという。
「今年度から人事制度改革を進めており、よりマーケットバリューに合った報酬レンジにアップグレードしています。評価制度についても求める水準を言語化し、キャリアビジョンやキャリアパスも明確化しました。メンバーに対して、より成長を感じながらキャリアアップできる環境を整えていきたいと考えています」
こうして組織を整えていく一方で、井口は新規事業の創出にも着手している。グループが掲げる高い目標を実現するためには、収益性をさらに上げていく必要があるという。
「日本の賃貸仲介業者の約90%が月に1回はITANDI BBにログインしており、それを経由した申し込み件数は、年間100万件を超えます。業界の“プラットフォーム”として幅広く活用されている強みを生かし、業務支援のためのより多くのサービスを提供することを計画しています。例えば引っ越しの際には、電気、ガスなどのライフラインや新聞の購読など、多くの取引が発生します。そうした業者をつないだり、事務処理などの業務を簡素化したり一括して請け負うするなど、あらゆる角度から新たな施策を検討しています」
サービスを各方面に拡充することでシナジーが生まれ、顧客の利便性が高まる。そして顧客や関連プレイヤーが増えることで、さらなるシナジーが生まれる。その先に井口が見据えるのは、不動産業界の構造そのものを変える試みだ。
「私たちが最終的にアプローチするのは、業界構造の変革です。不動産業界には、入居者をはじめ、物件を所有しているオーナー、物件や入居者を管理する管理会社、入居希望者を探す仲介会社という主要プレイヤーがいます。さらに外側にも保証会社や保険会社など、関係するプレイヤーがたくさんおり、業界構造が非常に複雑です。しかも、いまだに電話やファックスといったアナログのやり取りが続けられています。そうした世界を、私たちのプロダクトやサービスによって変えていく。エンド・ツー・エンド(End-to-End)が一本につながった世界を目指します」
GA technologies
https://www.ga-tech.co.jp/
いぐち・しゅんすけ◎GA technologies執行役員、ITANDI 取締役 執行役員 COO。大学卒業後、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、セールス・マーケティングに従事。19年、University of MichiganにてMBAを取得し、エムスリーに入社。製薬マーケティング支援事業において、プラットフォーム系サービスの事業責任者、コンサルティング営業・CS/プロジェクトマネジメント部隊のグループリードを経験。また、グループ会社の代表取締役も務める。24年7月より現職。




