全米オープンテニスが盛況だ。今年の大会は、初日の入場者数が過去最多の6万1,392人を記録。初日5日間の観客動員数も30万1,058人と、2009年以来初めて30万人を超えた。世間でも連日、セレナ・ウィリアムズら人気選手の勝敗が大きな注目を浴びた。
ニューヨーク市のフラッシング・メドウズ・コロナ・パークで開催される全米オープンは、年に一度のスポーツイベントの中で世界最大の規模を誇る。70万人以上のファンが詰め寄せ、チケット収入は約1億ドル(約120億3,000万円)にのぼる。同大会を運営する全米テニス協会の最新の発表によれば、チケット売上、スポンサー料、放映権、売店の売上による総収入は年々着実に増加しており、2013年は2億5,300万ドル(約304億4,000万円)に達した。そしてその数字は今後、飛躍的に伸びると見られている。
観客らは世界中の高収入、高学歴層
まずスポンサーに目を向けると、協賛企業の数は増える一方だ。今年はジェイコブス・クリーク(オーストラリアのワインメーカー)、ラバッツァ(イタリアの大手コーヒーブランド)、ジュース・プレス(ニューヨーク市内に33店を展開するフレッシュジュースやスムージーの店)、オレオ(ナビスコ)が新たに加わった。これらの企業はトップクラスのスポンサー企業、アメリカン・エクスプレスやエミレーツ航空、JPモルガン・チェースの3社に比べると契約金額は低いが、会場で商品を販売することで存在感を示している。
ラバッツァの副会長マルコ・ラバッツァは「我々のブランドの位置付けやターゲット層を考えると、全米オープンほど最適なスポーツイベントはない。北米におけるマーケティング戦略に完全にフィットした」と話す。
ラバッツァは今年に入ってデンマークのキャロライン・ウォズニアッキ選手とスポンサー契約を結んだ他、ウィンブルドンと全仏オープンにも協賛している。
「米国内のマーケティングの核となるのがニューヨーク。我々の取引相手、顧客、株主が大勢のニューヨーカーとともにコーヒーを飲みながら試合を楽しむことを願っている」
全米テニス協会の経理部門の責任者であるルー・シャーは、「エミレーツ航空やラバッツァといったブランドは、テニスを世界中の裕福で教養のある男女にアピールできる場だと認識しています」と言う。
昨年の全米オープンの観客の平均世帯収入は16万1,000ドル(約1,937万円)。80%が大卒以上の学歴の持ち主だ。男女比は43対57で、大規模なスポーツイベントには珍しく女性が多い。
国内外の放映権料も上昇中
放映権収入も増加する見込みだ。全米オープンの放映権収入は2013年の時点で6,500万ドル(約78億2,100万円)で、この10年ほどは大きな変化がなかった。だが2013年、スポーツ専門局ESPNが2015年から11年間にわたる米国内の独占放映権を8億2,500万ドル(約992億7,000万円)で獲得。この金額は、昨年まで46年間にわたって大会を放送していた地上波ネットワーク局CBSと、2009年に参入したESPNの2社が払っていた年間放映権料の2倍に近い。ESPNは2週間の大会期間中、130時間に及ぶ中継を行うと発表した。
もっとも全米オープンの中継を楽しみにしているのは米国人だけではない。世界各国の選手が出場していることもあり、視聴者の半数以上が国外のファンだ。ヨーロッパ、南米、アジアにおけるテニス人気は米国以上であり、放映国は201カ国にのぼる。
全米オープンの収益は、会場であるビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンターの拡張によってさらに増えると予想される。
4年にわたる総工費5億ドル(約601億6,000万円)の大規模リフォームの中で最も費用がかかっているのは、センターコートのアーサー・アッシュ・スタジアムに新設される開閉式の屋根だ。2016年に完成する予定で、全米テニス協会のシャーによれば「最も目に見える変化だが、最も収益に結びつかない部分」だという。
また、セカンドコートのルイ・アーム・ストロング・スタジアムも開閉式屋根付きの新スタジアムに生まれ変わり、3番目のコートであるグランドスタンドも場所を移して8,000人収容のサイズになる。より多くのコートがテレビ中継に対応する。売店エリアは現在の2倍の面積になり、レストランやラウンジの軒数も増える予定だ。全米テニス協会は10万枚のチケット売上増を見込んでいる。
ニューヨーク市の観光・外食産業もますます恩恵を受けるだろう。2012年の調査によると、全米オープンは年間7億5,000万ドル(約902億4,000万円)の経済効果をもたらしている。昨年の大会のチケット購入者のうち38%がトライステート・エリア(ニューヨーク、ニュージャージー、コネティカットの三州)外、17%が米国外からの観客だった。