2025年から30年にかけて訪れるとされるのが「プロテイン・クライシス」なるものだという。世界ではタンパク質が生命エネルギーの格差をつくりあげると言われているのだ。
今から半世紀前──。スーパーの棚からトイレットペーパーが消えた。物価は狂乱のごとく跳ね上がり、日本経済は石油依存という弱点を突かれ、急ブレーキをかけられた。世界を震撼させた「オイルショック」だ。
そして今、目前に迫るのは、2025年から2030年にかけて到来するとされる「プロテイン・クライシス」なのだという。世界的な経済成長と人口増、食生活の西欧化などでタンパク質需要が急増する一方、気候変動や環境負荷、資源の制約により、供給が追いつかなくなる新たな食糧危機だ。
オイルショックから50年、私たちが学んだのは、危機が混乱を招きつつも技術革新や産業転換を大きく促したという事実だ。ならば迫る「プロテイン・クライシス」も同じではないか。かつての克服を支えた三つの原動力──。「技術革新」「代替・需要変化」「価格メカニズム」──を手がかりに、その道筋を探りたい。
1)「技術革新」─時空超越という新たな発展
石油危機を契機に省エネ大国へと変貌した日本。今求められるのは、プロテイン・クライシスを支える技術だ。ここでは、とりわけサプライチェーンやコールドチェーンを最適化し、タンパク質の寿命を延ばす「フード・ロンジェビティ(食の長寿化)」技術に焦点を合わせたい。
Alphabet(Googleの持ち株会社)は、テクノロジーを通じて社会課題の解決に挑み続ける企業だ。そのムーンショット研究機関「X」から生まれたプロジェクト「Chorus」は、今プロテイン・クライシスに挑んでいる。「世界のフードロス3割は輸送中に発生する。不適切な温度管理による損失解消のため、生鮮食品のトレーサビリティ需要が高まるなか、当技術の意義は大きい」と語るのは、プロジェクトに携わる価値デザイナーの渡邉賢一だ。「Chorus」は「位置情報」「温度」「圧力」の3つのセンサーをタグに搭載し、輸送中のモノの動きを計測・追跡。Googleマップと連動し、保存環境を確認できるだけでなく、在庫管理や需要予測、流通品質の向上にも寄与し、持続可能で高付加価値なサプライチェーンを実現する。
フード・ロンジェビティに寄与するもうひとつのテクノロジー、それが冷蔵庫、冷凍庫に次ぐ第三の鮮度保持技術「ZEROCO」。「収穫された瞬間から進む腐敗と劣化。この技術は、時間の概念を超えられるクロノスフリー・ガストロノミー(時間超越の美食)をもたらす」(同社社長 楠本修二郎)。ヒントにしたのは、日本の雪国の食を支えた低温・高湿の保管環境「雪下野菜」だ。野菜は寒さから身を守るために糖分を蓄え、甘みとうまみが増す。この技術により、食材本来のおいしさを保つだけでなく、食材寿命をフレッシュなまま延ばし、フードロス削減に貢献。さらに、サプライチェーンの川上に導入することで鮮魚の神経締めや、はらわた除去といった初期加工業務から解放されるという。「しかもZEROCOを予備冷却機能として活用し、調理済みの食品を冷凍すると従来のような細胞破壊を起こさず、つくりたてのおいしさが復元する。まさに食のレコーディング技術です」(楠本)
KEYWORD|ZEROCO
生産と同時に腐敗や劣化に対応しなければいけない一次産業の希望となるZEROCO。倉庫内は0°付近かつ湿度100%近傍を維持することで長期保存が可能に。 水の気化熱を利用するため電源不足にも有用な設計だ。保存だけでなく、予備冷却装置としての活用や、販売の活用も進む。





