食&酒

2025.12.14 12:30

2030年プロテイン危機。日本が救う「食の未来」

Kokhan O / Shutterstock.com

日本からの3つの提案

そこで、私たち日本がこのプロテイン危機に対し提案できることがいくつかあると思います。

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そのひとつとして、大豆を中心に発酵でうまみを引き出す日本の知恵は、安価でおいしく、満足感も高い、環境に優しい未来食として世界に貢献できるのではないでしょうか。納豆や湯葉、魚肉加工品など、生産余地を含めた工夫次第で新しい価値を生み出せる素材やレシピは無数にあります。

ふたつめは、自然の恵みへの感謝と、摂取のバランス感覚です。江戸時代の日本では、仏教国であるがゆえに殺生してはいけない、といいつつも、イノシシのことは山鯨だといって魚の一種として頂いていましたし、うさぎも耳は羽のようなものなので鳥の一種だと。建前よりも日本の生態系の現実を優先し、何ひとつ無駄にせず活用し、いただいていたのです。自然の恩恵はしっかり活用、ありがたく頂戴はするけれど、感謝の思いは決して忘れませんでした。

そして、もうひとつ。例えば、中華もフレンチも中央集権的に皇帝が食材を中央に集めていましたが、和食は江戸時代より分散的に進化してきました。結果、健全な競争が起こり、各地の料理人が工夫を凝らしてきたのです。こうして日本の食は異なるものを受け入れながら、それぞれの味覚に合わせて再構築する力を身につけました。それが、カツカレーになり、焼き餃子、焼きそばパンといった日本独自の料理にもつながりました。それらは、日本食が次なる世界へ広がる力の源であり、私はこれら日本的「洋食」の可能性に強い期待を抱いています。

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父、德川吉宗前当主からの教え

最後に、家康時代から言い伝えられた家訓は、とよく聞かれることがあるのですが、答えに窮するんです。ただ、先代の父から唯一言われていた言葉があります。それが「食べ物の好き嫌いを言うな」ということ。父は戦時中に子供時代を送っていて、旧華族の子弟としては珍しく餓死しそうになった経験もある。この教えは、感謝の念だけでなく、食事の前に手を合わせるといった礼儀、あらゆる恵みにえり好みをしないことで、多様な味に心を開く姿勢の大切さなど、言葉の裏側にある日本的文化の結晶として、今も私の心に響いています。


德川家広|德川宗家19代当主。(公財)德川記念財団理事長。翻訳家。
慶應義塾大学経済学部卒業後、米ミシガン大学で経済学修士号取得。国連食糧農業機関(FAO)勤務後、米コロンビア大学で政治学修士号取得。著書に『自分を守る経済学』、『マルクスを読みなおす』、訳書に『「豊かさ」の誕生』など多数。

文=谷本有香(1〜3P前半)・安宅和人(3Pコラム)・德川家広(4.5Pコラム)

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