食&酒

2025.12.14 12:30

2030年プロテイン危機。日本が救う「食の未来」

Kokhan O / Shutterstock.com

江戸式プロテイン・レボリューション世界──「タンパク質危機」へのヒント 

表向きは平和な時代でも、食から世界を見渡せば、新たな戦乱の世といえなくもない。国連食糧農業機関(FAQ)での実務経験をもち食に造詣の深い德川家の末裔は、どのような世直しを考えているのだろうか──。

advertisement

德川吉宗19代目の私は、大学卒業後、国際連合食糧農業機関(FAQ)に勤務、世界における「食」に関わる道を選びました。食革命ということでいえば、江戸時代に德川幕府が統一的な権力のもとで、全国の多様な食資源の統合をしたことがひとつあげられるのではないでしょうか。日本は世界的に見て例外的に恵まれている地域です。外から攻められることもない、かといって孤立もせず、独自の文化を育んでこられました。日本列島は南北に長く、高低差もある。また四季の移ろいがはっきりし、山と海が織りなす地形のなかに豊かな食材が育ちやすい。北海道から沖縄まで、同じ国土のなかにこれほどの多様性がある国はそう多くありません。

「適地適作」という思想

こうした自然条件が、日本の食文化を複雑で奥深いものにしてきましたが、江戸幕府は平和が長く続いたという時代背景もあり、その多岐にわたる食文化を「地産地消」より広域な思想のもと、「適地適作」という、大規模な流通を始めることができたのです。今の山形県である出羽国酒田を起点とし、年貢米を太平洋を南下、江戸へ運ぶ東廻り航路、そして、日本海から瀬戸内を経て、大坂・江戸を結ぶ西廻り航路がつくられ、さまざまな地域の特産品が運ばれ、各地で交易が盛んになりました。これにより、日本全体の経済発展が支えられただけでなく、地域ごとに閉じていた食が、多様な豊かさとともに各地域や食卓に届けられるようになったのです。

「しょうゆ」という革命

もうひとつの江戸時代の食の革命。それは、しょうゆが庶民の食卓の隅々まで行きわたったことです。それまでは、お酒に麹を入れ、煮詰めてアルコールを飛ばした煎り酒が調味料として使われていましたが、しょうゆの量産化によって人々の生活水準は一気に向上しました。生活水準だけではありません。このしょうゆの「うまみ」が食卓における人々の幸福度をあげたのです。

advertisement

ここから言えることは、食とは単なる栄養摂取ではないということ。今後、世界的な人口増加によって、タンパク質の奪い合いが起こるかもしれませんが、大切なのは、食糧問題は「カロリーが足りていれば起こらない」ということではないということです。人は一定のカロリーを満たした後には、必ず「おいしさ」を欲します。肉の脂が脳に快楽をもたらし、タンパク質が分解され生まれる「うまみ」が舌を満たす──。このおいしさへの感覚は人類共通なのです。ですから、食を通して社会の安定を考えるとき、カロリーベースだけで考えてはだめなのです。おいしさがあってはじめて安定は成り立つ、さもなければ、人間は不満が溜まってしまうものなのです。

しかし一方で、人口や所得の増加に伴い、世界的に肉の消費は増え続けています。結果、タンパク質の供給不足の懸念は否めず、とりわけ牛肉は環境負荷が大きく、サステナブルではありません。この非継続的な状況を無理やりねじ曲げてまで経済活動を続け、環境破壊を進行させてしまうというのは明らかに現実的ではないでしょう。

次ページ > 日本からの3つの提案

文=谷本有香(1〜3P前半)・安宅和人(3Pコラム)・德川家広(4.5Pコラム)

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事