食&酒

2025.12.14 12:30

2030年プロテイン危機。日本が救う「食の未来」

Kokhan O / Shutterstock.com

3)「経済性・価格メカニズム」

石油危機を打破した最後の力。「経済性・価格メカニズム」。原油高は代替エネルギーの経済合理性を高め、原子力発電の建設や再エネ研究投資を正当化。また、重厚長大型産業から省エネや小型化に強いエを移し、経済の質的転換を促した。

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同様にプロテイン・クライシスも、炭素税など環境コストの転嫁で畜産価格が上昇する一方、代替タンパクは技術進化でコストが低下し、伝統的な畜産は一部の贅沢品へ、日常消費は代替品へと移行する可能性がある。順天堂大学大学院の田村好史教授も「今後、タンパク質が高騰し、油が安価になるなど、人間に必要なエネルギー源としての単価格差が生じるのでは」と指摘する。

一方、石油危機が日本を省エネ大国に導いたように、この危機が日本を「プロテイン大国」に変える未来も描ける。ここに興味深いデータがある。日本の領海とEEZ(排他的経済水域)をプールに見立てると、国土が保有する海水体積量は膨大にあり世界4位になるという。さらにそのなかには、寒流2本、暖流2本が入っていることにより豊富な魚介類とプランクトンを抱える。これをGDP(Gross Domestic Product)ならぬ、「GDP(Gross Domestic Protein)」としてとらえれば、日本の優位性を世界で高める資源になりうるだろう。「タンパク質は日本の新たな資源となり、世界市場でトップに立ち、外交カードにもなりうる」(渡邉)。政策面でも「プロテインは最低限の社会インフラ。その確保は最も議論されるべき課題」(野中教授)。さらに企業にとっても無視できず、「たんぱく質の不足は FUS(女性の低体重/低栄養素症候群)へ結びつく可能性があり、ウェルビーイングに着目した新たな健康経営施策が必要になるのではないか」(田村教授)。

危機は痛みを伴う。しかし、革新を生む土壌になることも私たちは知っている。ならばこの迫り来るプロテイン・クライシスは、日本に「食」を軸とした産業変革を促し、競争力の源泉となるプロテイン大国へ進むきっかけになるかもしれない。

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KEYWORD|MICOPROTEIN
海外でも活用が進むマイコプロテインだが、国内ではこうじ菌を使う製品に大きな特徴がある。うまみ成分につながるのだ。アグロルーデンスのマイコプロテイン「Comeat(コミート)」は、粒状で弾力のある質感、奥深いうまみからハンバーグやミートソースなど、多くの食品に活用されている。

「江戸前リバイバル:防潮堤が育む新たな海の台所」

日本三大都市圏は海抜の低い沿岸部に集中し発展してきた。かつて立地の利点だった条件は、今や気候変動の進行で、水害への脆弱性が危険視される。世界の都市リスク分析では、浸水リスクの高い36都市のうち水没時の想定被災者数で東京が1位、大阪が4位にランクインし、長期かつ広域でこれらの都市が水没すれば、経済損失は甚大となる。

参考になるのは、オランダのモデルだ。国土の4分の1が平均海面よりも低いこの国は、アムステルダムを取り囲む湾を二重の巨大な防潮堤で取り囲み、首都や歴史・文化を守っている。しかも、この防潮堤は自然環境と共生するネイチャーポジティブなグリーンインフラで、防潮堤によってつくられた新たな汽水域では、うなぎやスズキ、コイ等、さまざまな養殖や漁が行われている。

このアイデアを、三大都市へ導入できないか。もちろん、地理的な条件を見れば、コストや技術面、さらには社会的なハードルも決して低くはない。しかし、恒常的に高まる水没リスクに対し、従来の治水対策では対応しきれなかった領域にまで踏み込む現実的な解になりえる。また、世界で屈指の災害大国におけるレジリエンス強化と環境保護、経済発展を統合する持続可能な社会モデルの実証実験にもなるだろう。


安宅和人|慶應義塾大学 環境情報学部教授 LINEヤフー シニアストラテジスト
富山県出身。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程修了後、マッキンゼー入社。2001年イェール大学脳神経科学PhD取得。08年ヤフー入社。16年より慶應義塾大学環境情報学部教授。データサイエンティスト協会理事。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版)。

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文=谷本有香(1〜3P前半)・安宅和人(3Pコラム)・德川家広(4.5Pコラム)

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