小山:センスは磨かれるものですか。それとも天性のものですか。
幸後:天性というのは環境に大きく左右されるんじゃないかなと。幼いころからおいしいものを食べていたら味覚はどうしたって鋭くなるわけで。その部分を省くのであれば、いかに続けるかが大事。やり続けている時間が長ければ長いほどいいと思います。
小山:つまり経験によっても磨かれる?
幸後:経験も絶対に必要です。ただ、二十歳から経験を積むのと、5歳からいいものを食べているのでは、ベースが違いすぎるのも事実で。あと鮨屋って飲食店のなかでも特にパーソナリティが強い。スターみたいな人に全員がなれるかといったらなれないし、いろいろと難しいですよね......。
小山:確かに寿司屋って親方の個性で決まるところ、ありますね。
幸後:個人のプライベートの時間も味に大きく作用するというか。例えば定休日に飲食とは関係のない趣味に時間を費やす私と、生産者に会いに行って味を見たりコミュニケーションを取り続ける私がいたとして、5年後は雲泥の差になると思うんです。プライベートで誰と付き合うか、が仕事に全部影響する。それって私が女性だからなのかな?
小山:いや、男性もありますよ。どういう人と付き合うかで感性が変わったり、振り回された結果、失墜したりすることも往々にありますから(笑)。
今月の一皿

幸後が足繁く通う東京・新宿御苑「ロマーナ」の生ハムとルッコラのピザを、料理人ゴロー氏がアレンジ。
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都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。
幸後綿衣◎1989生まれ。福岡県で育ち、高校卒業と同時に上京。上智大学を卒業後、鮨職人を目指し、「すし匠」「西麻布 拓」「鮨 あらい」にて修業。2018年、渡仏。19年、「鮨 あらい」に復帰。23年11月に独立し、麻布十番に「鮨 めい乃」をオープン。
小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。2025年大阪・関西万博では食をテーマにしたシグニチャーパビリオン「EARTHMART」の企画・プロデュースを手がけた。


