食&酒

2025.12.13 15:00

鮨職人が人生最後に食べたいもの|幸後綿衣×小山薫堂スペシャル対談(後編)

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、鮨職人の幸後綿衣さんが訪れました。スペシャル対談第20回(後編)。


小山薫堂(以下、小山ご持参いただいたのはお手紙ですか?

幸後綿衣(以下、幸後はい、「鮨 あらい」時代からこれまでにいただいたお客様からの手紙の一部です。家の冷蔵庫に貼っていて、ときどき読み返したりしています。

小山:宝物ですね。鮨屋はお客さんに育てられるところがある。いいお客さんが来ていないと、いい鮨屋にならないというか。 

幸後:確かに。本当にずっと応援してもらっていまがあるので、褒め言葉も叱咤もアドバイスも真摯に受け止めますね。

小山:ちなみに食べ方が遅いとか、そもそもダイエット中とか接待なのであまり食べないというお客さんってどうですか。

幸後:私は「食べたいものだけ食べていただければよいですよ」というスタンスなので、デートでワインを飲みながら話したければ、それもハッピーでいいなと思うんです。結局、総合点でお客様を幸せにするためにやっているから、自分の鮨のベストクオリティは常に提供するけれど、お客様の好みや幸せにも照準を合わせたい。 

小山:なるほど、バランスですね。じゃあ、何歳まで鮨を握っていると思います? 

幸後:鮨自体はずっと握っていたいと思います。ただ、形態は変わるかもしれない。いまみたいに全神経全ネタに集中して握るって、相当アスリートじゃないですか。そしてアスリートには旬ってあるから、感覚が落ちてきたときにはゆるゆるとビストロ鮨でもやろうかなと。 

小山:世話になった師匠や先輩方を見ていて、その“旬”を感じたことは? 

幸後:いま皆さんが軒並み海外にお店を出しているのは、一店舗でやれること以上のプラスアルファにチャレンジしたい、しなければいけないという気持ちがあるのかなと。ライフスタイルを移したいとか、ビジネス的な大きな成功を追い求めたいとか、人それぞれの理由はあれど、そうやってネクストステージに移行することで旬の時期を長くしようとしているのかなとも思います。

センスは磨かれるのか、天性のものか。

小山:人生最後の晩餐はやはり鮨ですか? 

幸後:小肌ですね。小肌のタトゥーも入れていますし、仕込みでちょっとでも適当なことをすると美味しくなくなる。臭いとかしょっぱいとか酸っぱいとか、如実に出るんです。逆に成功したときは、誰もが喜ぶぐらい美味しくなる。そこが好きですね。

小山:「この人の小肌はすごい!」と思う店はありますか? 

幸後:お鮨って握った人の人間性を食べているみたいな感じで、だいたいわかるというか。魚の質はもちろん、その人がどういう目的でこのように仕上げてきたのかがわかるので、誰かの小肌が好きというのはないんです。強い系、レア系もあるし、日によっても違うし。でも「人生最後の一貫」なら、「鮨 あらい」の新井祐一さんかもしれません。小肌をおろすのもしめるのも全部やらせてもらったのは新井さんだった。

小山:コツみたいなものを教わった?

幸後:いえ、小肌を最初に締め出したときにたった一度だけパッて見せられて、「あとはセンス」という感じで(笑)。次から何を聞いても「センス」としか答えてくれなくて。

次ページ > プライベートで誰と付き合うか、が仕事に全部影響する

写真=金 洋秀

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事