経営・戦略

2025.12.12 13:30

コマツ今吉CEOが語る「信頼の総和」、不確実な時代を勝ち抜く哲学

今吉琢也|小松製作所 代表取締役社長 兼 CEO

もうひとつ、コマツが力を入れているのが災害対策だ。24年にはコマツと子会社のEARTHBRAINが共同で開発した、建設機械向けの遠隔操作システムを搭載した大型バン「Smart Construction Teleoperation-モビリティーオフィス」を発売した。ドローンなどで取得した測量データから地形情報をデジタル化し、車中にいながら施工現場の見える化や進捗管理などができる。災害時には現場近くに駆けつけ、車中から復旧作業に取りかかることが可能だ。

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「災害支援の領域でも、コマツにできることは多いです。社会課題の解決に取り組むことで、ステークホルダーに貢献しながら我々も成長する。この好循環こそ、コマツのあるべき姿だと思います」

社員を「柔軟な思考」へと導く

過去20年間、世界は比較的民主的な政権のもとで自由貿易の恩恵を享受してきた。海外売上高比率が9割を超えるコマツも例外ではない。だが今、私たちが目にするのは自由貿易の枠組みが崩れつつある世界の姿だ。今吉は、世界の政治経済の現状を「非常に不透明でリスキーだ」と指摘する。

経済環境の先読みが難しいなか、今吉が中期経営計画で掲げたキーワードは「ambition(アンビション)」だ。変化が激しい環境下でも、志高く前向きに取り組もうという思いが込められている。

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今吉もまた、熱意がなければ乗り越えられない試練を数多く経験してきた。東京大学法学部を卒業後、初任地の粟津工場では畑違いの経理を担当。その後、米国と中国で計12年を過ごした。1990年代後半から2000年代前半に赴任した米国では、コマツの創立以来初となる巨額の赤字を計上するなか新たな資金調達手段の開拓に奔走した。10年から2度にわたり赴任した中国では市場の急変に直面し、中国総代表として大規模な構造改革に取り組んだこともある。

コマツを率いる経営者となった今、社員には柔軟な思考をもつよう促している。例えば、コマツではこれまで日米欧などを「伝統市場」、新興国などを「戦略市場」と区分してきた。新中期経営計画では従来の市場区分を廃止し、各地域の特性や競争軸を見極めるよう提案している。既存の枠組みを取り払い、社員が自らの頭で考え新たな価値を創造することがコマツの成長につながると今吉は確信している。

「常に心がけているのは、歴史や将来を見据えながら状況を冷静にとらえること。真面目にコツコツ取り組み、コマツの信頼度を上げることが私の働きがいです」


今吉琢也◎東京大学法学部を卒業後、1987年に小松製作所に入社。米国駐在などを経て、2021年に常務執行役員中国総代表に。24年専務執行役員(経営管理管掌、中期経営計画担当)、同年6月取締役兼専務執行役員。25年4月より現職。

小松製作所◎1921年創立。主に建設・鉱山機械、林業機械、産業機械などに強みをもつ。国内外に71の生産拠点を構え、151カ国で販売・サービス代理店を展開。海外売上高比率(建設・鉱山機械)は 91%(2024年度実績)。

文=瀬戸久美子 写真=平岩 享

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