企業らしさをまとうAIへ
3つの「A」が示す戦略と働き方の新標準
最終セッションでは、博報堂DYグループでマーケティング基盤・データ基盤構築やAI活用を担う中村 信がファシリテーターを務め、花王株式会社 執行役員 デジタル戦略部門 データインテリジェンスセンター長の浦本直彦、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社でAI領域の技術・ビジネス開発を担当する寳野雄太、博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officer/Human-Centered AI Institute代表の森正弥が登壇。
AIエージェント時代における企業の戦略と働き方を、中村が提示した3つの視点「Automation(自動化)」「Augmentation(能力拡張)」「Aspiration(大志)」を軸に議論を展開した。
まず「Automation」について浦本は、花王が「AIセントリック」を掲げ、事業部門や機能部門を巻き込み、 マーケティングや品質保証にまで踏み込む伴走型の自動化を進めている現状を紹介。寳野は、AIが生活者や企業の意思決定をどのように支援できるかを示すべく、値下げ情報の検知から購入までを代行する消費者向けサービスの例や、企業内部で市場分析からクリエイティブ制作まで一連の業務を自動化する動きを紹介した。
一方で両者が共通して挙げたのは、マーケターの熱量や現場のこだわりといった暗黙知をAIにどう引き継ぐかという「境界線」の存在で、自動化にはその見極めが欠かせないという点だった。
続く「Augmentation」では、中村がクライアントと接した際、「AI依存で社員の思考力が下がるのでは」と疑念を抱かれたことを共有。これを受け、森が人とAIの関係を「能力の増幅」「創造性の拡張」「協創」の3段階で整理し、AIが人に問い、人がAIに問い返すことで互いのバイアスが外れる創造性の拡張こそが、Human-Centered AIの本質だと説明した。
最後に登壇者らは、技術やアルゴリズムの進化が結果として競合と同じような体験を生み、「同質化」を加速させるという現代のマーケティング課題に焦点を当てた。意味のある違いを生むために必要となるのが、3つ目のAである「Aspiration」だ。
寳野は、GoogleのAI Geminiが、企業のパーパスやビジョンを長期記憶機能で学習し、それを基にパーソナライズされたアウトプットを生成できると説明。企業が迷ったときにパーパスに立ち返るのと同様、AIが良質なアウトプットを生むためにも、「パーパスが極めて重要だ」と強調した。
森は、AI時代ではパーパスをAI内部にまで内面化させることで、「企業らしさ」をまとったAIエージェントが生まれると指摘。浦本も社員一人ひとりの「バディ」となるAIには、組織共通の思いや願望が土台として必要だと語った。
有識者らによるセッションが終了し、Wrap UPに登壇した中村は、「対話型インターフェースがもたらす影響は計り知れず、AIとの対話は新しい価値を生み出すクリエイティビティそのものにつながっていく」と総括した。
AIエージェントが本格的に普及する時代は、企業が「生活者が対話したくなるAI」というかたちでブランドに命を吹き込み、存在意義そのものを磨き上げていく時代でもある。本フォーラムは、効率化の先にある、大志に基づく対話と創造性の共創へ向かうための明確な指針を示した。


