チャンポン・ジャオ
推定資産790億ドル(約12.2兆円。1ドル=155円換算)のCZことチャンポン・ジャオにとって、ここ数年は厳しい時期だった。刑務所で二重殺人犯と同じ房に入れられた彼の暗号資産取引所バイナンスは、43億ドル(約6665億円)の罰金支払いで当局と合意した。救いを求めたジャオは、2025年春に恩赦を申請したが、そのタイミングはトランプとのビジネス上の結びつきが強まった時期でもあった。バイナンス社員は、トランプの暗号資産プロジェクト「World Liberty Financial」の立ち上げを支援したと報じられている。また2025年5月には、World Libertyの共同創業者ザック・ウィトコフは、アブダビの政府系ファンドがWorld Liberty発行のステーブルコインを使ってバイナンスに20億ドル(約3100億円)を投じる計画だと発表した。
フォーブスは現在、トランプが保有するステーブルコイン関連事業の持ち分を2億3500万ドル(約364億円)規模と試算している。その多くはこの取引によって生まれたものだ。
コインベース
米証券取引委員会(SEC)は2023年、コインベースが未登録の証券取引所や証券仲介業者、清算機関として活動していたとして提訴した。同社はこの訴訟で争い、一審では部分的な勝利を収め、さらに控訴審へと持ち込んだ。この対立のさなか、コインベースはトランプの就任式委員会に100万ドル(約1億6000万円)を寄付した。
そしてトランプの大統領就任から1カ月後、SECはこの訴訟の取り下げを申請した。コインベースはさらに、トランプが進めたホワイトハウス内のボールルーム(大宴会場)建設プロジェクトに資金を拠出した。同社幹部は、この支払いが「政権との良好な関係維持」を目的としたものだったと認めた。
トランプの次男エリック・トランプは、10月に「暗号資産関連の問題に直面した際、誰に助言を求めるのか」と問われた際に、コインベースCEOの名を挙げた。「私は、ブライアン・アームストロングと、彼が築いたものに心から敬意を払っている。それは偉大なアメリカと偉大なアメリカ企業についての物語だ」と彼は語った。
クリプト・ドットコム
米SECは2024年8月、Crypto.com(クリプト・ドットコム)が未登録の証券仲介業者や清算機関として事業を行っているとして、執行措置を取る可能性を示唆した。そこから事態は一気に動き始めた。10月にCrypto.comは反撃に出てSECを提訴し、自社の行動を「暗号資産業界全体を守るための抵抗」と位置付けた。だが2カ月後、トランプの政権復帰が確実になったタイミングで、同社は突如として訴訟を取り下げ、大統領就任式に100万ドル(約1億6000万円)を拠出し、同社のロビイストが式典の財務責任者を務めた。
2025年3月、Crypto.comはトランプのメディア企業「トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)」と組み、ETFを提供する提携を発表した。そしてそのわずか3日後、Crypto.comはSECが調査を終了したと公表した。この提携はその後も強まり、トランプメディアはCrypto.comが発行するトークンを取得し、Crypto.com側は同社の「予測市場分野への進出を支援する」と表明した。
「当社は長年、“規制という名の取り締まり”の環境下で事業を続けてきたが、新政権と協力し、デジタル資産の普及を後押しする明確なルール作りに取り組めることを嬉しく思う。調査が終了したのは、そもそも追及すべき正当な理由が存在しなかったからだ」と、Crypto.comの広報担当者は声明で述べた。
ドナルド・ウィルソン
米SECは2024年10月、シカゴ拠点のトレーディング企業DRWホールディングスの子会社が、未登録の証券ディーラーとして事業を行っていたとして提訴した。だがその5カ月後、トランプが政権に復帰すると、SECは自ら起こした訴訟を取り下げた。
その後、DRW創業者のドナルド・R・ウィルソン・ジュニアはトランプのビジネスパートナーへと姿を変え、トランプメディアに1億ドル(約155億円)を出資した。この取引が、トランプメディアの20億ドル(約3100億円)規模のビットコインへの投資を後押しし、トランプ個人のSNSの運営元にすぎなかった同社を、暗号資産に巨額投資を行う上場企業に変貌させた。
ジャスティン・サン
米SECは2023年、中国出身ビリオネアであるジャスティン・サンが、複数のB級セレブを動員して未登録証券を販売したとして提訴した。彼は、自らが発行した暗号資産トークンの取引量が多く見えるよう、数十万件規模の「ウォッシュトレード(架空売買)」を繰り返し、価格をつり上げたとされた。
サンは、この訴訟で争う一方で、トランプ一家の暗号資産プロジェクトに資金を投じ始めた。大統領選挙後、彼はWorld Libertyに7500万ドル(約116億円)を出資し、そのうち約3900万ドル(約60億円)がトランプに渡ったと推定されている。さらにサンは、トランプが発行するミームコインを1億ドル(約155億円)分購入すると約束した。
そしてトランプが大統領に就任してから約1カ月後、SECは裁判所に対し、この訴訟の取り下げを要請した。トランプは2025年5月、自身のミームコインの大量保有者向けの夕食会を開いたが、そこにはサンも出席した。会場は、大統領が所有するゴルフクラブだった。
ジェシー・パウエル
暗号資産取引所クラーケンの共同創業者ジェシー・パウエルは2024年6月、トランプが暗号資産業界への支持を公に示し始めた直後に100万ドル(約1億6000万円)を寄付した。Xで寄付を公表したパウエルは、その投稿でSEC前委員長ゲーリー・ゲンスラーを名指しで批判した。SECは以前からクラーケンが、未登録の証券取引業者として事業を行っていると主張していた。
また、その投稿の末尾にパウエルは「#freeross(フリー・ロス)」というハッシュタグを添えたが、これは、暗号資産を使った違法薬物や銃火器などの取引を仲介する闇市場「シルクロード」を運営したとして終身刑を受けた、ロス・ウルブリヒトの釈放を求めるものだった。トランプは、政権2期目の最初の恩赦対象としてウルブリヒトを選び、大統領就任からわずか1日後に彼を釈放した。
その2カ月後、SECはクラーケンに対する訴訟の取り下げを裁判所に申請した。クラーケンの広報担当者はその後の声明で、同社がどちらの政党にも寄付する意思があることを示唆し、「暗号資産は党派的な問題ではない」と語った。


