2025年10月24日発売のForbes JAPAN12月号第一特集は、「新いい会社ランキング2025」特集。上場企業を対象にした毎年恒例の大企業特集では、今年は「ステークホルダー資本主義ランキング」と、新たに「ESGフィット度ランキング」の2つを掲載している。ステークホルダー資本主義ランキングは、「地球(自然資本)」「従業員」「サプライヤー・地域」「株主」「顧客・消費者」の5つのカテゴリーで解析。ESGフィット度ランキングでは、サステナビリティ情報開示の義務化が進むなか、ESGの取り組みを自社の「稼ぐ力」につなげている企業を導き出した。同号では2つのランキング、IPOランキング上位の11企業の経営者インタビューを一挙掲載している。
前社長の長谷川閑史に引き抜かれ、2014年に社長に就任。直後から「真のグローバル化」に尽力してきた。26年6月の退任が決まったプロ経営者が、タケダの「現在地」と「未来像」を語る。
筆者が初めてクリストフ・ウェバーを取材したのは2019年秋のことだった。当時、武田薬品工業(以下、タケダ)はアイルランド製薬大手シャイアーを約460億ポンドで買収し、一気にグローバル化を加速させていた。「私はこの会社を、世界中の患者さんに貢献する真のグローバル企業にしたい」と、ウェバーは力強く語っていた。
あの日から6年が過ぎた。ウェバーがCEOに就任した15年時点で約6割だった海外売上高比率は現時点で9割に上昇した。「タケダがグローバルな製薬会社と競争できる地位を確立したことを誇りに思います」。そう話すウェバーの表情は自信に満ちていた。
地政学リスクが高まるなか、製薬業界を取り巻く環境は穏やかではない。タケダは米マサチューセッツ州ボストンにグローバル事業のハブとなる研究開発拠点をもち、連結売上高の5割を米国事業が占める。25年5月に米トランプ大統領が医薬品の関税導入を表明した後、ウェバーは以前から長期戦略として公開していたように、今後5年間で米国に300億ドルを投資する方針を改めて示した。
「私たちは約80の国と地域に事業基盤をもっています。現地のチームを通じて、各エリアの政策や動向を洞察することが可能です。地政学的な変化やリスクを管理しながら、人々の暮らしや健康を支える医薬品を世界に届ける。これが私たちの使命です」
性別や国籍が多様な人材が集まり、それぞれの持ち場でプロフェッショナルな働きが求められる企業。それがタケダだ。
25年のステークホルダー資本主義ランキングの5つのカテゴリーのうち、タケダが秀でている項目のひとつが「従業員」だ。同社は多様性の推進を企業文化の中心に据える。タケダのグローバル従業員の男女比率は5対5で、管理職もほぼ同じ。経営陣は8カ国の国籍で構成され、年齢層は40代から60代までと幅広い。
「グローバル企業にとって、また世界中の患者さんに向き合う企業として、多様性をもつことは非常に重要です。多様性と包摂性はタケダのDNAの一部であり、長期的な成功に不可欠なものです」
トランプ政権の影響を受けて、米国では大手企業の一部がDE&Iに消極的な姿勢を見せている。ウェバーの言葉に、あらためて「何のためのDE&Iなのか」を考えさせられる。



