仕事は「アドベンチャー」である
製薬業界の成長の鍵を握るもの。それは新薬開発パイプラインだ。
タケダは24年12月に5年ぶりとなる研究開発(R&D)説明会を開いた。次の収益の柱として期待される新薬候補は6つあり、うち25年度から26年度にかけて3件の承認申請が予定されている。
後期開発段階にあるパイプラインの開発には多額の投資を必要とする。タケダは人員整理を含めた資源配分の見直しや業務プロセスの効率化を通じてコストを削減し、後期開発パイプラインとDD&T(データ・デジタル・テクノロジー)への投資に充ててきた。
「数年前まではコンセプト段階だったAIの活用が、今では臨床試験計画の最適化や品質管理、製造プロセスの効率化など、幅広い分野で現実のものとなっています。AIへの投資を大幅に増やし、結果として効率性やスピードが向上した。非常にエキサイティングな時期です」
26年はタケダにとって過去に類を見ない年になるだろう。25年1月、タケダは現CEOのウェバーが26年6月をもって退任すると発表した。後任にはグローバルポートフォリオ ディビジョン インテリム ヘッドを務めるジュリー・キムが就任する予定だ。
このタイミングでリーダーシップの移行を選んだ理由を、ウェバーは「新製品の発売を妨げたり、混乱を招いたりするのを避けるため」だと説明する。
「タケダは日本企業でありながら米国で大きな存在感を放つ、非常にユニークな企業です。それゆえ、タケダのCEOの役割はとても複雑です。外部のステークホルダー、内部のビジネス、そしてタケダの特異性を理解する必要があります。次期CEOの発表から就任まで1年以上の移行期間を設けたのは、定期的な話し合いを通じて私の経験や視点をジュリーに共有し、彼女が準備万全になるのを手助けするためです」
仕事はアドベンチャーだとウェバーは言う。世界各国にいる約4万8000人の従業員とともに、「人々の命と生活を支える」という明確な目標に向かって働く。その先頭を走るCEOの仕事は、ウェバーにとって冒険そのものなのだ。
「私はこのセクターが本当に好きなのです。我々の使命は人々の暮らしを豊かにする医薬品を創出すること。この仕事に『退屈』はありません。毎朝、私は目覚めるたびにワクワクし、エネルギーが満ちてくるのを感じます」
しかし、これほどに好きな製薬業界を離れることに寂しさはないのか。もしや、タケダを去ったあとも製薬業界に身を置く予定なのだろうか。
「先のことは決めていませんが、そうなるかもしれませんね。私はまだまだ、エネルギーに満ちあふれていますから」
そう話すウェバーは笑顔だった。
Christophe Weber◎1966年、フランス生まれ。92年にリヨン第1大学で薬学・薬物動態学の博士号取得。グラクソ・スミスクラインワクチンの社長兼CEOなどを経て、14年にCOOとして武田薬品工業に入社。同年6月に代表取締役 社長、15年4月から現職。
武田薬品工業◎1781年創業の老舗製薬企業。消化器系・炎症系疾患、オンコロジー(がん)、ニューロサイエンス(神経精神疾患)、希少疾患、血漿分画製剤、ワクチンの6つのエリアにフォーカスを定めている。


