政治

2025.12.04 09:30

ロシアとの和平交渉でトランプ米大統領が理解すべきこと 米フォーブス編集主幹

米アラスカ州アンカレッジの米軍基地で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(左)を出迎えるドナルド・トランプ米大統領。2025年8月15日撮影(Contributor/Getty Images)

米アラスカ州アンカレッジの米軍基地で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(左)を出迎えるドナルド・トランプ米大統領。2025年8月15日撮影(Contributor/Getty Images)

フォーブス編集主幹のスティーブ・フォーブスは、ウクライナ侵攻を終結させるため、米国のトランプ大統領がロシアのプーチン大統領との和平合意を達成する上で直面する複雑かつ厳しい現実について解説する。


ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との和平交渉は、米ニューヨークのマンハッタンで不動産取引をする際の交渉とは全く別物だ。

特に民主主義国家の政府は、主に2つの外交上の過ちを犯しがちだ。1つは、交渉の相手側の動機を誤って判断すること。そしてもう1つは、国家が外交や軍事戦略を決定する上で、経済的側面の重要性を過大評価することだ。ロシアとウクライナの戦争を終結させるための交渉で、これが生々しく悲劇的に展開されるのを目にすることになるかもしれない。

米国のドナルド・トランプ大統領は、プーチン大統領が、石油・天然ガスの生産や鉱物の採掘、ホテルやオフィスビルなど多岐にわたる建設プロジェクトによる数十億ドル規模の取引の見込みに誘われて合意に応じることを期待している。トランプ政権は、同様に輝かしい見通しがウクライナをも軟化させ、譲歩へと導くだろうと考えている。その夢とは、両国間の商業活動が双方に永続的な平和をもたらすだろうというものだ。こうした取り組みから何が生まれるのか、誰が予想できようか? プーチン大統領について、幻想を抱くべきではない。同大統領はウクライナを即座に掌握できると確信できる取引にのみ合意するだろう。トランプ大統領がロシアの首都モスクワの赤の広場に同国の独裁者にちなんで名付けられた立派な塔を建設する見通しは、プーチン大統領の究極の目標を少しも阻止しない。

当然のことながら、プーチン大統領は苦境にあるロシア経済を助ける協定を結ぶことを望んでいるだろう。だが、同大統領の帝国主義的野望の前では、目先の経済的利益など取るに足らないものだ。そしてその野望はウクライナで終わるものではない。ロシアの近隣に位置するポーランド、リトアニア、ラトビア、エストニア、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンがそれを警戒している。懸念を抱いたドイツは、複数年にわたる大規模な再軍備計画を進めている。

率直に言えば、ウクライナの独立を完全に保証する唯一の方法は、同国にロシアの侵略を撃退するために必要な兵器と行動の自由を与えることだ。さもなければ、プーチン大統領は戦場で恐ろしい消耗戦術を駆使するか、1938年のミュンヘン会談で英国とフランスがチェコスロバキアを裏切ったように、米国との交渉の場でウクライナを裏切って、この戦争に勝利すると確信し続けるだろう。

しかし、経済が権力の代わりになり得るという幻想はなかなか消えない。例えば第二次世界大戦前、英国とフランスはナチスドイツの深刻な経済問題が紛争を抑止するだろうと自らに言い聞かせていた。英仏が理解できなかったのは、従来の民間基準ではドイツ経済は混乱状態にあったが、ナチス政権は全く基準の異なる戦時経済を準備していたということだ。当然、期待されたドイツ経済の崩壊が起こることはなかった。

第一次世界大戦前、欧州の経済は極めて複雑に結び付いており、貿易が停止すれば全面的な崩壊が起こるため、紛争は起こり得ない、あるいは起こったとしても短期間で終わるだろうと多くの人が考えていた。ところが、戦争が勃発すると深刻な混乱が生じたが、各国はそれに対応し、悲惨な戦闘は4年間続いた。

経済的錯覚に関連するもう1つの錯覚は、相手側の動機を誤って計算することだ。米国のバラク・オバマ元大統領は、イランの指導者は自国民の幸福に関心があり、制裁の解除や繁栄をもたらす貿易や外国投資の見通しによって同国を説得し、テロリズムや革命の目的や核開発の野望を放棄させられると考えていた。だが、その判断は間違っていた。

イランの指導者は革命家だ。アドルフ・ヒトラーも革命家だった。プーチン大統領も革命家だ。これらの支配者は従来の基準では動かない。

forbes.com 原文) 

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事