欧州

2025.12.04 09:00

戦時下のウクライナの教育環境 ゼレンスキー大統領夫人が語る

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(左)とオレナ・ゼレンシカ夫人。2025年12月1日撮影(Ibrahim Ezzat/NurPhoto via Getty Images)

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(左)とオレナ・ゼレンシカ夫人。2025年12月1日撮影(Ibrahim Ezzat/NurPhoto via Getty Images)

「教育は回復力と平和の基盤であり、決して中断させてはならない――」。ウクライナのオレナ・ゼレンシカ大統領夫人は筆者との対談で語った。「戦時下の教育は、単なる学問的知識を超えた意義を持つ。教育は子ども時代を守るものだ。共感力や生きていく力、責任感を育むものでなければならない」

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ロシアがウクライナに侵攻して以降、オレナ夫人は戦時下の困難の中、国内全域で公教育の継続に向けた活動を続けてきた。例えば、ウクライナ政府は9月、教育に焦点を当てた2日間にわたる会議「大統領夫人と紳士のサミット」を開催した。創設者のオレナ夫人は同会議で、子どもたちがウクライナの未来をどう形作るかについて議論した。同月に開かれた国連総会では、オレナ夫人がパネル討論に出席し、ロシアの軍事侵攻がウクライナの子どもたちと同国の教育に与えた影響について発言した。

1991年にソビエト連邦から独立して以降、ウクライナ政府は教育事業に多大な資源を投じてきた。世界銀行によると、同国政府は2001~21年の間に国内総生産(GDP)の年間平均15%を教育に割り当ててきた。これは米国の約6%と比較すると高い比率だ。実際、この投資は実を結んでいる。国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、ウクライナの識字率は99.97%に達し、世界で最も識字率の高い国の1つとなっている。

教育への投資により、ウクライナはさまざまな分野で数多くの著名人を輩出してきた。例えば、ウクライナの数学者マリナ・ビャゾウシカは球充填問題に関する研究で、数学界の最高栄誉であるフィールズ賞を受賞した。米電子決済大手ペイパルを共同で設立したマクシミリアン・レフチンと、メッセージアプリ「ワッツアップ」を共同で立ち上げたヤン・クムはともに幼少期にウクライナで教育を受けた。さらに、テニスのエリナ・スビトリナやサッカーのオレクサンドル・ジンチェンコなど、世界的に有名なスポーツ選手たちも同国で教育課程を修了している。

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戦時下で変化するウクライナの教育環境

2022年2月にロシアが侵攻を開始して以降、ウクライナの教育環境は変化している。同国の教育系非政府組織(NGO)オスビトリヤによれば、同国ではロシアの軍事侵攻で約400の教育機関が破壊された。深刻な被害を受けた学校や大学は約4000校に上る。教育機関への破壊行為に加え、ミサイルや無人機(ドローン)による絶え間ない攻撃により、子どもたちが安全な環境で学業にいそしむことが困難になっている。こうした状況の中、遠隔教育の比重が大きくなっている。

オレナ夫人は「ウクライナでは学校に避難所がない場合や、ロシアの占領下にありオンライン形式の授業しか提供されないといった理由で、43万人以上の生徒が対面授業を受ける機会を失っている」と説明。戦争の影響で「ウクライナの生徒の11%がオンラインのみで学んでいる」と述べた。その上で、「約370万人のウクライナの生徒が毎日授業に出席している。教師たちは避難所や地下に設置された学校で、あるいはコンピューターの画面越しに教えている」と語った。

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翻訳・編集=安藤清香

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