経済・社会

2025.12.05 16:15

NBA王者・元米大統領候補の人生の現在地。ビル・ブラッドリー元上院議員が見出した「人間の絆」

現在は米投資銀行アレン・アンド・カンパニーのマネージング・ディレクターを務めるビル・ブラッドリー元米上院議員。NBAの殿堂入りを果たした伝説的選手で、米大統領予備選候補として出馬した経験をもつ Photograph by Minh Connors

現在は米投資銀行アレン・アンド・カンパニーのマネージング・ディレクターを務めるビル・ブラッドリー元米上院議員。NBAの殿堂入りを果たした伝説的選手で、米大統領予備選候補として出馬した経験をもつ Photograph by Minh Connors

「自分がどこにいるか」という感覚。空間のことだけではない。今、自分の人生、もっと言えば歴史という時間軸のどの時点にいるのか――。その「感覚」を常につかみながら生きているような人たちがいる。ビル・ブラッドリー(82)もその一人だ。

ブラッドリーは、プロスポーツ、政治、ビジネスのいずれの領域で偉業を成し遂げてきた。“超高校級”のバスケットボール選手としての評価を高めた彼は、奨学金の給付を申し出た100を超える大学からの申し出を断り、奨学金がなく、強豪校でもないプリンストン大学へ進学。大学バスケでも活躍したのち、1964年の東京オリンピックで米バスケットボールチームの一員として金メダリストに輝き、NBAニューヨーク・ニックスからドラフト指名を受ける。

ところが、すぐにプロ入りする道を選ばなかった。ブラッドリーは、ローズ奨学制度で英オックスフォード大学へ留学したのである。帰国後、名門ニューヨーク・ニックスに入団してNBAを2度制覇。プロバスケットボール選手を引退後に米上院議員に転身し、2000年の米大統領選では民主党予備選候補に出馬。政界を退いたのちは、米コンサルティング企業マッキンゼー・アンド・カンパニーで勤め、現在は米投資銀行アレン・アンド・カンパニーに身を置く。

バスケットボールを愛し、誰よりも練習をこなし、1983年にはNBAの殿堂入りまで果たしたブラッドリーだったが、「17歳のとき、人生はバスケットボールの数シーズンよりもずっと長いということに気づいた」と話す。だからこそ、本インタビューでも明かすとおり、彼がニックス時代のチームメイトだった名将フィル・ジャクソンのようにNBAのヘッドコーチを志すことはなかった。その代わり、スポーツ→政治→ビジネスの世界の頂点でさまざまな景色を見てきた稀有な経歴の持ち主といえる。

2023年、ブラッドリーは自身の半生を顧みるドキュメンタリー『Rolling Along: An American Story(とうとうと流れつづける:とあるアメリカン人の物語)』を発表した。同作品は、映画『スター・ウォーズ』シリーズのヨーダの声とパペットの操作で有名なフランク・オズと、映画監督で『ドゥ・ザ・ライト・シング』『マルコムX』などの代表作をもつスパイク・リーがエグゼクティブプロデューサーを務めており、現在はファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井正 会長兼社長の提供によりYouTubeで視聴できる。

卓越した大学バスケットボール選手として高まっていたブラッドリーの評判が全国区になったきっかけが、作家ジョン・マクフィーが1965年に米ニューヨーカー誌に寄稿したルポルタージュ「A Sense of Where You Are(自分がどこにいるかという感覚)」だ。マクフィーは、プリンストン大学在学中のブラッドリーに密着し、彼のスキルから思考、価値観までをつぶさに追っている。

ルポの題名は、「『バスケットボールをやっていると、これくらい近距離にいると、ゴールを見る必要がなくなるんだ』と、(ブラッドリーは)また肩越しにボールを投げ、そのままリングを通した。『自分がどこにいるかという感覚が発達するんです』」という、彼のバスケットコート上での空間認識能力について触れた一文に由来する。

それこそ川が流れるように、その時その場所で、あるべき姿として生きてきたブラッドリー。彼は今、「どこ」にいるのだろうか? 小さな街で育ったコンプレックスからバスケットボールで養った価値観、祖父母や両親から得た金言と親子の関係性、現在の米政治への想い、コロナ禍の間に『Rolling Along: An American Story』が生まれ変わった経緯まで幅広く、Forbes JAPANに語った。

* このインタビューは、ビル・ブラッドリー元米上院議員のプリンストン大学時代の僚友で、SVJP共同創設者ダニエル・オキモト米スタンフォード大学名誉教授、そしてSVJPチーフ・オブ・スタッフの大橋アキ氏の協力により実現しました。



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文 = 井関庸介

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