――『Rolling Along』の紹介文に「私たち全員の物語です(A story about all of us)」とあるのは、そうした想いがあったからなんですね。華やかな経歴の裏に、「規律」や「無私」といった泥臭く、地味な価値観が徹底されていること。派手な成功談より、そうした内面的な価値観に重きが置かれているように感じました。そうした価値観は、政治思想にはどういったかたちで影響を与えていますか?
ブラッドリー:それこそが私が共和党ではなく、民主党員である理由だと思っています。なぜなら、私は多くのアメリカ人の生活基盤に良い影響を与えることをしたいと感じたからです。私は中流層と貧しい人々のために戦いたいと考えていたからです。
――政界を引退した1998年頃、「政治が機能不全に陥っている」と警鐘を鳴らしていましたね。もう30年近くも前のことです。今のアメリカの政治と社会をどう見ていますか? かつては主流だった中流層が縮小し、社会は分断されています。
ブラッドリー: 当時は主に「政治とカネ」の問題が中心でした。しかし今の状況は、もっと深刻です。民主主義を守るための制度そのものを、破壊しようとする姿勢が蔓延しているからです。市民が投票を通じて自らの運命を切り拓く――。その正当な可能性を壊し、投票権を否定したり、ありとあらゆる手段で人々を威嚇したりするようになれば、国は危機に陥ります。今、私たちはまさにその危機的状況に立たされていると思います。民主主義の土台となる制度が、根底から蝕まれているのです。現在の状況は、アメリカにとってカタストロフィ(破滅的な事態)です。時が経てば、私たちはいずれ、その重大さを思い知ることになるでしょう。
――危機的な現状だからこそ、『Rolling Along』という作品がもつ意味は大きいように感じます。この作品を通して、視聴者の皆さんにどのようなメッセージ、あるいは希望を受け取ってもらいたいとお考えですか?
ブラッドリー:『Rolling Along』をご覧になった皆さんが、私の物語の中に、自分自身の人生と重なる部分を見出してくだされば、これほどうれしいことはありません。もちろん、誰もがNBAのチャンピオンになれるわけではありませんよね? しかし、誰もが「懸命な努力」が何を意味するかは知っているはずです。この作品を通して、人々と公平に向き合うこと、そして他者に敬意を払うことの本当の意味を感じていただけると思います。そして何より、作品の中に描かれた「内なる善意(Better impulses)」にご自身の姿を重ね合わせ、その良心が命ずるまま行動する勇気を奮い立たせてほしい――。それが、私の心からの願いです。


