――「無私の精神」といえば、あなたはボールをもっていない時の動き出しやつなぎのパスを大切にし、守備意識が極めて高い選手として知られていました。攻撃を終えるや、自陣に戻って率先して守備をしましたね。無私の精神とチームワークが当時のニューヨーク・ニックスの強みの一つでした。
ブラッドリー:私たちは攻撃でも守備でも一つの「チーム」でした。それは確かですね。
――そうした価値観は、あなたの中に自然と備わっていた資質なのか、それともご両親の教育や厳格な練習を通じて、意識して身につけようと努力されたものなのか、どちらの側面が強いと感じますか?
ブラッドリー: 両親やコーチ、本から学んだこと、そして「なぜ自分は成功できたのか」を振り返る中で身につけました。そこで得た結論は、「こうした価値観を自分の中で確立しなければ、勝つことはできない」という事実です。実際、うまくいった人は皆この価値観をもっていましたし、そうでなかった人はもっていませんでした。これは誰にでも通じる普遍的なルールだと思います。本を書いた理由も、それが人間としての根っこにある大切なものだと伝えたかったからです。私たちが人間である限り、どこの国の人であっても、人生の成功や充実感、そして生きる意味を感じるために、この価値観は欠かせないものだと思います。
――『The Values of the Game』(未邦訳)の序文は、ニックス時代のチームメイトで、シカゴ・ブルズやロサンゼルス・レイカーズを率いてヘッドコーチとしてNBAで11度の優勝を誇る名将フィル・ジャクソンが書いています。彼のように、バスケットボールのヘッドコーチになろうと考えたことはありませんでしたか?
ブラッドリー:コーチになりたいとは一度も思いませんでしたね。私にとって重要なのは選手としてバスケットボールをすることだったからです。私はゲームをプレーし、自分の価値観をコート上で体現し、そして次のステージへ進みたかった。その価値観を、政治的な価値観と融合させ、政治の世界に進みたかった。バスケットボールの世界に留まりたいとは思いませんでした。私は頂点にたどり着き、どん底も味わいました。だから活躍の場を変え、より大きなことのために働こうと決心したのです。もちろん、バスケットボールが大事じゃないとは言いませんよ。でも、戦争や平和、経済的な苦境や繁栄ほどではありません。それにほら、平等や、お互いを理解し合うこと……そうしたことの方が、ずっと重要ですから。
今は、政治によってお互いの「違い」ばかりが強調されてしまう時代です。だからこそ、私たち人間に共通する絆「コモン・ヒューマニティ」を呼び起こすことが、真の課題ではないでしょうか。これは大阪でも、セントルイスでも、ハンブルクやモスクワでも変わりませんよね? そして、最終的に私たちを救ってくれるのは、まさにその「人間の絆」への呼びかけなのだと思います。つまり、他人の姿の中に、自分自身を見出すということです。『Rolling Along』を見て何を感じてほしいかと聞かれたら、私はこう答えます。私が語る葛藤や困難、成功や喜びのエピソードの中に、視聴者の皆さんが、自分自身の人生と重なる部分を見つけてほしいのです


