経済・社会

2025.12.05 16:15

NBA王者・元米大統領候補の人生の現在地。ビル・ブラッドリー元上院議員が見出した「人間の絆」

現在は米投資銀行アレン・アンド・カンパニーのマネージング・ディレクターを務めるビル・ブラッドリー元米上院議員。NBAの殿堂入りを果たした伝説的選手で、米大統領予備選候補として出馬した経験をもつ Photograph by Minh Connors

――『Rolling Along』で印象的なのが、共感できる金言が出てくる点です。興味深いことに、いずれもあなたの祖父母や両親など、ごく身近な人たちです。例えば、お祖父様が言っていた「アメリカの素晴らしいところは、自由な国であり、人々が互いを思いやることだ」、あるいは、お祖母様にかけられた「あなた(ブラッドリー元上院議員)はスコッチ・アイリッシュなの。自分が理解できないからといって、他人を見下してはいけないよ」という言葉は、社会的に分断されている現代のアメリカ国民に響くように思えます。

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ブラッドリー:そうした言葉は私の心に深く刻まれています。今でも、こうした格言を孫に授けている祖父母は確実にいると私は信じています。そのようなつながりは終わっていないと思いますよ。親や保護者が子どもたちにとって尊敬できる存在ではなくなったとか、祖父母の話に誰も耳を傾けなくなったという考えは、現代の悪しき一面にとらわれているに過ぎません。

――インスタグラムやTikTokでも、こうした格言や金言が流れてきます。オンライン上で人生経験を積んでいる人もいることでしょう。今の子どもたちは、議員の世代と比較して両親や祖父母とコミュニケーションを取る機会が少ないかもしれません。現代の生活様式についてはどうお考えでしょうか。

ブラッドリー:私はそうは思いません。ソーシャルメディアが当たり前の時代と思われていますが、それでも、子供たちの多くはきっと誰かとは朝食を一緒に食べていますよね。ソーシャルメディアとではないでしょう? 父親や母親とのはずです。祖父母と食事をすることもあるでしょう。そうした中で、大人たちが物語を語り、子はそこから学ぶのです。私は、親や祖父母が人々の人生において役割を果たさなくなったという議論には同意できませんね。

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NBAニューヨーク・ニックス時代のビル・ブラッドリー元上院議員(右)。背番号「24」は永久欠番になり、1983年にはNBAの殿堂入りを果たしている  Ross Lewis / Getty Images
NBAニューヨーク・ニックス時代のビル・ブラッドリー元上院議員(右)。背番号「24」は永久欠番になり、1983年にはNBAの殿堂入りを果たしている Ross Lewis / Getty Images

――作家ジョン・マクフィーが1965年に米誌ニューヨーカーに寄稿したスポーツ・ノンフィクション「A Sense of Where You Are(自分がどこにいるかという感覚)」は傑作として名高く、そのタイトルも素晴らしいです。あなたのバスケットコート上の空間認識能力が由来になっていますが、常にご自身を客観視されているように思えます。自分自身と、自分を取り巻く世界との関係性を正しく理解する――。その感覚は、政治やビジネスの世界でもあなたの指針となっていたのでしょうか?

ブラッドリー:何年もかけて自分のことを理解しようと努めてきました。そうするようになったのは、大学生の頃からだと思います。

――高校生の時から政治に興味をもっていた、と自伝で書いています。その頃にお父様に政界のメンターについて助言を求めているくらいです。そのことからも、早くから政界入りを考えていたことがわかります。そして、無数の大学から奨学金のオファーがあったにもかかわらず、奨学金の給付がないプリンストン大学を選んでいます。プリンストン大学は政治を学ぶうえでは名門校の一つです。高校生の頃から、「NBAを経て政界入りする」という人生のロードマップを描いていたのでしょうか?

ブラッドリー:その段階では政治のことまで計算に入れてはいませんでした。じつは当初は、デューク大学にスポーツ奨学金で進学する取り決めをしていたのです。すると父が、ヨーロッパを旅行してきたらどうかと言いました。それで、女性13人と私というメンバーで渡欧しました。その彼女たちに、プリンストンやイェールではなく、デュークへ進学する理由が理解できない、と言われたのです。帰国すると、野球で足を骨折してしまい、「バスケットボールがない世界」について考える時間ができました。そのとき、「もしバスケットボールをしないなら、自分が行きたい大学とはどこか?」と自問したのです。その答えが、プリンストン大学でした。

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文 = 井関庸介

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